一生忘れられないだろうな。
理音くんって、あんな風に楽しそうに歌うんだなぁとか、ギターもあんなに上手に弾くんだなぁとか。
新しい理音くんを見た日。
「そのリトルヘブンの単独ライブに行ってきたってこと?」
「えっ、まぁ…」
「羨ましすぎるっ‼︎でも…理音なのかぁ…。夢、返せよ…。あたしから、いろんなもの、返せよ‼︎」
あたしよりもファンだったもんね、紗雪…。
あの理音くんが動画を上げてるなんて、誰も思わなかっただろうし。
「だけど、理音もかなりのイケメンなんだよなぁ…。由乃の彼氏だから、そういう目で見たことないけど。あれが同級生だったら、確かにキャーキャー言いそう」
「言っちゃダメ‼︎」
「言わないよ。だって、理音だし」
あたしのだからね‼︎
あたしの…なんて…えへへっ…。
「そして?チューくらいして来たんでしょ?」
「してないよ?」
「えっ、しないの?普通、しない?あんたら高校2年生だよね?」
「す、するものなの⁉︎」
そういうものなの⁉︎
高校生、怖いっ‼︎
紗雪と、こういう話もしたことなかった。
「紗雪はチューとか…したことあるの?」
「あるけど。普通に」
「いつ⁉︎」
「初めては中2かな。初エッチは去年だけど」
「きょ、去年⁉︎誰と⁉︎」
「先輩と付き合ってたじゃん、あたし。別れたけど」
「そういえば…」
去年3年生だった先輩と、一時期付き合ってたような…。
そうか、紗雪は大人の女だったのか…。
「教祖様…」
「こら、やめい」
「でもっ、でもね?理音くん、そういうこと考えてないと…思うんだよね?」
「理音だってあんな風に何も考えてない、ボケーっとした引きこもりだけど、男だからね?」
「あっ‼︎ギューって、したよ…?」
「それは理音が?」
「理音くんが、ぬいぐるみ抱っこしてて…羨ましくて…あたしが抱きついた…」
「…………ぬいぐるみにヤキモチとか、どんだけ好きなの」
好きだもん。
世界の中にある、すべてのものより、理音くんが一番好きだと思う。
すぐに離れたけど、あの感覚はとてもドキドキした。
理音くん、大きかった。
それに、男の子なのにいい匂いで。
珍しく赤い顔で『ドキドキして死にそう』なんて言われちゃったら…こっちが悶え死ぬってば。
「あたし、ドキドキして寝れないかも…」
「何言ってんの、これから先、どうすんのよ」
「いやいや、理音くんにそんな下心はないから‼︎と、信じたい…」
「なら、チューも由乃からするのか」
「えっ…。それはちょっと…」
「ガツガツ来られるのも引くけど、何もされないってのも、女として悲しいじゃん」
確かに…。
そっか、そういうの、意識する歳なんだよね。
お母さんだって、あたしの今の歳から2年であたしを産んだわけだし…。
「ねぇ、紗雪…」
「んー?」
「次に理音くんに会ったら…どんな顔すればいいかわかんない…」
「あんたは可愛いね。そういうとこが由乃の可愛いとこだよ。そのまま、ピュアでいてね?」
ありがとう、教祖様…。
【理音】
急に泊まりに来た嵐生に、聞きたいかとがある。
「その大荷物は…?」
「お家、追い出されちゃった」
「…………で?」
「しばらく、お世話して?」
「ハァ…」
どうやら、赤点を取って親を怒らせ、宿題もやらず、家の手伝いもせず。
バイトを探すと言って、見つけてきたバイトが歳を偽ってのホストだと。
嵐生のお母さんがブチ切れて、出てけと言われたそうだ。
「いやぁ、さすがにホストはやめるって言ったよ」
「うん、学校にバレたら退学だよね」
「だって…。レジ打ちとかしか見つけらんねぇんだもん…。手っ取り早くホストかなとか思っちゃうじゃん?」
「思っちゃわない。バカなの?」
「どうすりゃいいんだよぉ〜…」
「明日モエさんに聞いてあげるよ…。確かに、新人入ったけど忙しさが増してるからさ」
部屋の清掃まで、回らない時もあったりして。
もっとバイトが必要か…と、モエさんが呟いていたし。
捨てられた子犬みたいな顔の嵐生。
泊まるって、なん連泊する気…?
「父さんに聞いてみるから…」
「えっ⁉︎ウタいんの⁉︎」
「今母さんと久しぶりのデート中。そのうち帰ってくるよ」
「やべっ、ドキドキしてきた…。ん?ってことは…理音くん、由乃とふたりきりだったのぉ?」
なに、そのヤラシイ言い方…。
邪魔しといてよく言うよ。
「脱童貞?」
「してません」
「チャンスだったのに」
「でも…抱きしめた…」
「はははっ、ピュア‼︎」
「嵐生は童貞?」
「んなわけねぇだろ。俺、中学ん時結構遊んでたし。俺の中学、荒れてたってのもあんのかもしんねぇけど」
そうなのか…。
中学生とか、早すぎない…?
「あの、さぁ…」
「うん?」
「抱きしめただけで…下半身ヤバかったんだけど…」
「ぶっ…だははははっ‼︎やべぇっ、笑わせんなよっ‼︎ははははっ、腹痛ぇっ」
「いや、マジで。切実に。本当に焦った…」
「くくっ…。あー、それは、まぁ、アレだ。お前も期待してるってことだ」
そう、なの?
なんの意識もしなかったはずなのに。
抱きしめただけであんな風になるなら、毎回どうしたらいいの?
「気持ちはわからなくもない」
「嵐生もそんな時あった?」
「授業中とか、何も考えてねぇのに『ヤッベェ〜』とか?」
「それは経験したことないです、俺」
「慣れりゃあ平気だ。なんか、いいな、そういうの」
全然よくないんだけど。
本当にどうすりゃいいの…。
「ヤッちゃえば?」
「は?何言ってんの?なんで俺が雛森に嫌がることしなきゃいけないの?そんな可哀想なこと、するわけないじゃん」
「あっ、ごめん…」
嫌われたくないし。
雛森だって、そんなの望んでないはず。
「でもさぁ、我慢して我慢できるもんでもなくね?」
「我慢…」
「俺はムリだわ。好きな女なら尚更」
「うーん…。そうなのかなぁ…」
「まぁ、相談ならいつでも乗りますよ」
「ありがと、嵐生」
話聞いてもらって、少し楽になった気がする。
その後、嵐生が風呂に入ってる間に帰ってきた両親。
泉は今日、地方撮影で泊まりだって言ってたから、帰ってこない。
嵐生の親が心配するといけないから、ちゃんと連絡は入れろと。
「おおおお、お世話になりますっ…」
「理音の友達ー‼︎ギターやってんだって?」
「は、はいっ‼︎めっちゃファンですっ‼︎兄貴が聞いてて…小学生の頃からファンですっ‼︎超かっけぇ…」
「そんな緊張しないでよ。で、聴きたいな、ギター」
「そそそそ、そんなっ…」
「理音も行こう、音楽部屋」
俺も風呂に入ってから、なぜか父さんも一緒に音楽部屋。
嵐生がめっちゃ緊張してる。
「俺、ベース弾いたげる」
「ま、マジスかっ‼︎」
「だって理音が歌うんでしょ?これやんの?モック?俺らじゃないのぉ?」
「理音が反対したもんで…」
「あははっ、さて。お手並み拝見」
緊張してる嵐生だったけど、ギターがうまくなっていた。
父さんのベースは、タカと違う。
しっくり来ないな。
ブワッて、なんない。
歌っても、達成感が感じられなくて。
「父さんじゃダメみたい」
「うわぁ、ひどーい…」
「あっ、そう言えば、芸能事務所からスカウト来たよ」
「ウソ⁉︎どこ⁉︎」
パソコンで、父さんに確認してもらった内容。
かなり美味しい条件だと言っていたけど。
「断るね」
「なんで?ひとりはイヤ?」
「今はこっちのが楽しい」
「そっか。もったいないけどね。ここ、音楽も結構力入れてくれるとこなんだけど。理音は理音の思うようにすればいいよ」
そうするよ。
さすが、理解のある父さんだ。
「ちょっと待ってよ…。それって…俺らに気ぃ使ってんの?」
「違うけど?俺、バンド楽しいから」
「後悔しねぇの?」
「うん。今しかできないかもしれないでしょ?行けるとこまで行きたい。みんなで」
「理音ぉぉぉぉぉぉ‼︎」
半泣きの嵐生に抱きつかれたけど…やっぱり雛森に抱きつかれたい…。
その後も、父さんからギターを教えてもらっていた嵐生と、夜中に布団に潜る。
わずかに雛森の匂いがして、なんだか照れた。
途中で寝てしまうという失態を犯さなきゃ、もっと話せたのに…。
嵐生から電話が来た時には、長いエンドロールになっちゃってたし。
雛森も寝てたっぽいけど、いつ寝たのかな。
寝顔、見たかったな…。
そんなことを考えていたら、いつの間にか寝ていた。
朝になり、ご飯を食べたらバイトに向かう。
嵐生はタカんちに遊びに行くと言っていた。
「おはようございます」
「おはよ、理音」
「モエさん、バイト増やす予定あります?」
「うん。面接したんだけど、音楽に興味ない人っぽくてさー」
「俺の友達がバイト探してて。バカだけどいいヤツなんですよ」
「あっ、もしかして前に来た?どの子?」
「嵐生って言う、ギターの」
「あの子ね‼︎いいよ、履歴書持って来いって言ってくれる?」
嵐生に連絡すれば、履歴書持って飛んで来た。