翌朝、解錠を待ちかねたように練習場入りした俺。東北の冬は相変わらず厳しいが、そんなことは言ってはいられない。


グラウンドには見慣れない顔がいくつもある、今年の新入団選手達だ。彼らには取材陣がカメラを向けている。


1年前、俺も多くのフラッシュを浴びて、戸惑ったものだ。彼らルーキーの存在と、逆に自分に対するマスコミの注目度がだいぶ低くなった現実を目の当たりにして、いよいよ2年目のシーズンがスタートしたんだと実感した。


こうして、始動した俺は、しかしすぐに自分が出遅れていることを自覚させられた。


動きが周りと明らかに違う。一言で言えば、身体が重い。松本さんの指摘は鋭かったと認めるしかない。


(追いつかなくては。)


俺は初日からトレーニングの強度を、予定より上げざるを得なかった。


トレーニングを始めてから1週間程が過ぎた頃、球団からキャンプの一、二軍の振り分けが発表された。


俺は一軍メンバーに入ることが出来た。昨年もそうだったが、それはハッキリ言って話題作りの客寄せパンダとして。


しかし、今年は野崎新監督期待の星としての抜擢。


(まずは第一関門突破!)


去年の秋季キャンプの時の監督の様子から、予期はしていたものの、俺はやはりガッツポーズを禁じ得なかった。


そして迎えた春季キャンプ。大物新監督を迎えた新生Eへの注目度は高く、多くのマスコミや評論家が取材、視察に訪れた。


「俺達プロは注目されてなんぼなんやから、お前ら張り切ってやれや。」


ミーティングで、そう言って監督は俺達選手を煽った。


そんな中、俺はもがいていた。自主トレ段階での出遅れを取り戻せず、調子は上がって来なかった。


遥かに格上の一軍常連クラスの選手達が、きっちり2月1日に照準を合わせて来たのに対し、俺の調整不足は明らかだった。


焦る俺に対して、追い打ちをかけるように、第1クール最終日に設定された紅白戦の先発登板が通告された。