こうして、俺は大学の卒業式に一時帰省して以来、久しぶりに我が家に戻った。


「聡志、お帰り。」


そう言って、笑顔で出迎えてくれた母親の顔を見ると、なんかホッとする。いろんな話をしながら、あれを食え、あれを買っておいたからと席を温める暇もなく、あれこれと俺の世話を焼くおふくろの仕草がなんか懐かしくもありがたかった。


こういう日の夜はウチと岩武家合同の「聡志お帰り会」が催されるのが、ここ数年の通例だったんだが、由夏も就職し、帰りが学生時代のようにはいかないので、それはとりあえずお預け。最愛の彼女との再会も、今夜は難しそう。


小学生から始めた野球。大好きで、とうとう職業にまでしてしまったのだが、それでも1年通じて、野球をやり続けたのは初めての経験だった。


俺クラスの選手は、一軍の舞台を目指して練習あるのみなのは、わかってはいるが、さすがに少し骨休めもしたかった。


これから2週間程は、野球のことは忘れてリフレッシュしようと思っている。幸い、高校や大学時代の仲間達との約束もいくつか出来ている。


みんな、それぞれの場所で、いろんな経験をした日々だったはず。積もる話もいっぱいあるだろう。連中との再会は今から楽しみだ。


やがて、父親も帰って来て、久々の親子3人での夕飯。好物の刺身を肴に、ビールを飲み、母親の手料理に舌鼓を打って。


俺が帰って来たことを、両親が本当に喜んでくれてるのが、ひしひしと伝わって来て。なんか温かい気持ちになった。


それからしばらくして、ひとっ風呂に浴び、自分の部屋でまったりしていると、インターホンの音が聞こえた。時計を見れば、もう9時過ぎ。誰だ、こんな時間にと思った次の瞬間、ハッとする。


やがて、パタパタと聞き覚えのある足音が近づいて来ると、ノックの音がして、返事をしようとすると、ガチャっとドアが開き


「聡志、お帰り!」


と満面の笑みの由夏が、文字通り飛びついて来る。


「ただいま、由夏。」


明らかな会社帰りの恰好で、家にも寄らずに、真っ直ぐ俺に会いに来てくれた彼女が、とにかく可愛くて、愛しくて、俺もしっかり抱きしめる。


「ごめんね、今日早く帰れなくて。」


「いや、仕事帰りに疲れてるのに、会いに来てくれて、ありがとな。」


「会いたかったんだもん。」


う〜ん、前にも言ったけど、こんな可愛い生き物、やっぱり他にいねぇよなぁ。


トレーニングはもちろん怠れないけど、でもせっかくのオフなんだから、由夏と一緒に居られる時間を少しでも多くしたいと思ってしまった俺は、プロ野球選手失格、かな・・・。