「私があんまり身体が強くなくて、結局もう子供は諦めるしかなくて・・・。主人は子供好きな人だから、自分の子供が出来るのを楽しみにしてたんだけどね。申し訳なくて、離婚を申し込んだんだ。ちゃんとあなたの子供を産める人を探してくださいって。」


「奥さん・・・。」


「そしたら、顔を真っ赤にして怒鳴りつけられた。『俺は君を愛してるから結婚したんで、君に子供を産んでもらう為に結婚したんじゃない。俺をバカにするな!』って。後にも先にも、主人に怒鳴られたのは、あの時だけ。」


「・・・。」


「Eの若い選手を応援してるのも、地元愛はもちろんだけど、きっと自分の子供のように思ってるから。それに由夏ちゃん。」


「はい。」


「あなたには、自分の娘の姿を重ねてるんだと思う。実は私も、ね。」


「えっ?」


「あなたが初めてウチに来てくれたあと、2人で話したんだ。もし娘が生きてたら、由夏ちゃんみたいな可愛くて、素敵な娘に育ってくれてたかな、なんてね。」


「そんな・・・。」


そんなことを言われて、私はびっくりするやら照れ臭いやらで困ってしまい、聡志も言葉を失ったまま、奥さんを見つめる。


「そんなあなたが、自分が生涯を掛けて取り組んでいる料理に造詣が深くて、いろんな話が出来ることが嬉しいみたい。きっと本当の娘と自分の仕事について、語り合えてるような気がしてるんでしょうね。そんな主人を見てると、私もなんか嬉しくて・・・。」


なんとお返事していいのか、正直私が困っていると


「ごめんなさいね。あなたと同じ年頃の娘さんは、他にもたくさんいるのに、私達の勝手な思い込みを押し付けて。迷惑よね。」


と奥さんが頭を下げてくれるから、私は慌ててかぶりを振る。


「そんなことありません。なんか私も嬉しいというか、そんな風に思っていただけてるなんて・・・光栄です。」


「そう、ならよかった。今夜は他にお客さんもいないし、遠慮しないでゆっくりしてって。私達は上の自宅に戻ってるから、帰る時に声を掛けてね。」


そう言うと、奥さんも厨房へ下がって行った。


「聡志、お子さんの話、知ってたの?」


そう聞いた私に


「いや、初耳・・・。」


と聡志はポツンとそう一言、答えただけだった。


その後、お言葉に甘えて、1時間ほどいろんな話をしていたけど、あまり長居してもご迷惑なので、お暇することにした。


「変なお話をしてしまって、気分を重くさせちゃったかもしれないけど、これに懲りずにまた食べにきてね。」


「はい。ぜひ、またお邪魔させてもらいます。」


私がそう言うと、お2人は嬉しそうに微笑んでくれた。