「『白鳥舞』、か・・・。」


帰りの電車の中、私はなんとなくそうつぶいていた。


「舞ちゃん・・・可愛かったね。」


「うん・・・。」


「でもさ。確かに舞ちゃん、すごくちっちゃかったけど、でも一昨日まで悠のお腹の中にいて、悠の中から出て来たんだよ。考えてみたら、凄いことだよね。」


そんなことを言う加奈に


「ついこないだまで、私達と一緒に大学生だった悠が、お母さんになったんだもんね・・・。」


思わず私も続ける、そしてなぜかそのあと訪れる沈黙・・・。


「ねぇ加奈、何考えてた?」


と私が聞いたのは、それから二駅ほど過ぎた頃だった。


「うん?・・・なんか悠が羨ましいなって。」


「加奈?」


「悠が妊娠して、就職も諦めて、先輩と結婚するって聞いた時、正直可哀想だなって思った。」


「可哀想?」


「うん。だってさ、私達はまだ若いんだよ。いろんな可能性がある。社会に出ていろんな経験をして、今まで自分でも気が付かなかった自分に気づいたりして、いろんな人と出会って、楽しんだり、時に傷ついたりしながら成長していくんだよ。でもそういうことをほとんど経験も出来ないまま、悠は家庭に入って、旦那さんを支えて、子育てに追われて・・・。それがつまらないとか、下らないなんて言いたいんじゃないよ。でも、今それをしなくっていいじゃない、もっと後でも全然遅くないじゃない、それが私の思いだった。」


「・・・。」


「でも今日の悠はさ、とっても輝いてた、幸せそうだった。そんな悠を見つめる先輩の目はとっても優しくて・・・まぁご存じの通り、私はかつて先輩に憧れてたってこともあるから、余計にそう思ったのかもしれないけど・・・羨ましかったな。」


そんなことを言う加奈が意外で、私は彼女の横顔を見つめる


「愛する人の赤ちゃんを産むって素敵だなって思った。だって、どんなに時代が変わっても、それって女しか出来ないんだもん。それを逆にハンデ、重荷って思う人もいるんだろうけど、私は素直に早く結婚したいなって思っちゃった。」


そう言って、加奈は微笑んだ。けど


「とは言っても、私はそんな相手、全然当てがないし、現れる見込みも当分なさそうだし、結婚どころか、未だに恋に恋してる有様だからね・・・。」


と今度はため息。


「ところで由夏はどうなの?」


「えっ?」


「その点、由夏は私と違って、ちゃんと将来を誓い合ってる彼氏がいるんだから。そういう由夏は、どう思ったの?」


そう聞かれて、一瞬言葉に詰まってしまった私は


「う~ん、もちろん舞ちゃんは可愛かったし、いいなとは思ったけど、すぐにっていうのは、やっぱり現実的じゃないって言うか・・・。」


と答えていた。


「そっか、やっぱりお相手がちゃんと確保されてる人は余裕だね。」


「加奈・・・。」


「ウソウソ、冗談だよ。お互い憧れてた仕事に就いたんだもんね。まずはそれを頑張らないと。」


そう言って、また微笑む加奈を、私は何とも言えない気持ちで見ていた。