それだけに、この前の聡志の言葉は意外だった。


「せっかくなりたい職業に就いたんだから、とことんやってみろよな。」


聡志は、そう力説していた。もちろん、私だっていい加減な腰掛け気分で入社したつもりはない。


だけど、聡志は本当にそれでいいのだろうか?私は、思わずそう聞いてしまった。それに対するあいつの答えは


「当たり前じゃねぇか。」


だった。聡志は、それが何を意味しているのか、わかっているのだろうか?


聡志が仙台に行って、もうすぐ5ヶ月ちょっと。その間に会えたのは、2月に沖縄キャンプに私が訪ねたのと、GWの2回だけ。


遠恋になって、まして聡志がプロ野球選手という特殊な職業に就いた以上、それは分かり切ってたことなのに、早くも音を上げたのかと言われてしまうかもしれないけど、やっぱり寂しい。


もちろん、今は仕方がない。もう少し、お互いに落ち着けば、状況も変わるはず。それはわかってる。


だけど、やっぱり離れ離れであるという現実は変わらない。それを解消する方法は、最終的には聡志が野球を諦めるかもしくは在京球団に移籍するか、私が仕事を辞めて、彼の元に行くしかない。


どちらが現実的であるかは言うまでもない。今は女が家庭か仕事か、二者択一を強いられる時代じゃない。だけど、私の場合は聡志をパートナーに選ぶと決めてる以上、少なくても今の仕事と家庭は両立できないことははっきりしている。


だとすれば、今すぐにではないにしても、「家庭」という選択をすることに躊躇はなかった。


でも・・・聡志はそれを望んでないような口ぶりだった。だとすれば、私達はいつまで経っても一緒にいることができないまま。


それで本当にいいの?幸せなの、私達?それとも聡志はひょっとして・・・。


ううん、そんなはずないよね・・・。


私の心は揺れ動き、わだかまったものが溶けない。聡志の気持ちがわからない。


違うよ、そんな深刻に捉える話じゃない。やっと社会人になって、今は少しでも早く仕事を覚えて、一人前になることをまず第一に考えるのが当たり前。


聡志は、その当たり前のことを言ってるだけなんだよ。