やがて、シーズン開幕。


「当たり前だけど、私達もね、旦那達と一緒に戦ってるんだよ。」


シーズン前に、ある奥さんに言われた言葉が実感できる日々。春から夏、やがて勝負の秋へ。


Eは昨年の惜敗の屈辱を晴らすべく、王者Hと激しい戦いを繰り広げた。そして、昨年同様、今度は仙台スタジアムでの直接対決3連戦に、優勝の行方は託された。


地元ファンの大声援を背に、しかし初戦を落としたEは、2戦目を取り返し、運命の3戦目、先発のマウンドに立ったのは聡志だった。


聡志は、襲い来るH打線に一歩も引かず、味方打線の援護を待つ。7回を2失点、1点のリードを保って、後続にバトンを渡す。


その1点のリードを守り切ったEがついに、悲願のリーグ優勝を勝ち取った。


野崎監督が胴上げされる、歓喜の輪の中心に、聡志がいるのを、テレビで確認した私は、思わず目頭が熱くなるのを感じた。勝ち投手になった聡志は、これでシーズン14勝目の勝ち星。昨年より、5つ勝ち星を上積みして、優勝に大きく貢献した。


祝勝会から、共同記者会見、更に各テレビ局へのハシゴ出演を済ませ、聡志が帰宅したのは、午前3時過ぎ。もちろん、出迎えた私を、聡志はギュッと抱きしめてくれた。


「由夏、勝ったぞ。」


「うん、おめでとう。」


「由夏のお陰だ。由夏がいてくれなかったら、俺、きっと今日は勝てなかったし、14勝も出来なかった。」


「そんなこと、ないよ。」


「そんなことある。1人じゃないと、2人だと、こんなに人は強くなれるんだ、こんなに力を貰えるんだって実感した。由夏、本当にありがとう。そして、いっぱい寂しい思いをさせてゴメンな。」


「ううん、私だって聡志から力をもらったし、この家の中で、いつも聡志を感じてたから、寂しくなんてなかったよ。聡志、一緒に居させてくれて、ありがとう。」


「由夏・・・。」


私達は、強く強く抱きしめ合った。


その後、リーグ代表として、他リーグ優勝チームGと戦った日本シリーズは、惜しくも2勝4敗で敗退。でもチーム2勝の内の1勝を挙げたのは、聡志だった。


『1年ぶりに対決した塚原は、別人のようなピッチャーに成長していた。由夏さんの内助の功の賜物だ。これからは、奴を強力なライバルの1人として、意識していかなきゃならないと思う。』


みどりさんを通じて、もたらされた松本先輩のメッセージは、本当に嬉しい言葉だった。