私が第一志望の大学に合格した日、親達が合同の祝勝会をやってくれた。そのあと、私の部屋で話してたら、聡志が初めてデートに誘ってくれた。


嬉しくって、どこに行こうか、一所懸命に考えて、でも結局行けなかった。聡志が長谷川さんにコクられて、舞い上がっちゃってさ・・・。


そのあと、紆余曲折の末、私達は高校卒業の日に、やっと心を通じ合わせた。そして、今日に至るんだけど、その時の幻に終わったファーストデートに、どこに行くつもりだったのか、私は聞かれても、しばらくは教えなかった。正直、長谷川さんを優先されて、拗ねてたから。


ようやく伝えたのは、多分1年近く経ってからだった。異人館を歩いた後、港の見える丘公園まで、行きたいと思ってたって。


さんざん聞きたがったくせに、いざ教えたら、フーンの一言で済まされて、以降、神奈川県人でありながら、港の見える丘公園へ一緒に行ったことがないという貴重なカップルとして、過ごして来た。


「俺のポカで、ここは俺達の大切なファーストデートの思い出の場所になる筈だったのに、そうはならなかった。それが判った時、俺は決めたんだ。ここに2人で来る時は、ファーストデートよりもっと大切な場所にしようって。」


そう言うと、聡志は私を自分の方に向かせた。


「思わせぶりなことを言ったまま、やきもきさせてごめん。23日を待ってたっていうのもあるけど、これを選ぶのに、時間が掛かっちまって。」


そう言った聡志は、小さな包みを私に差し出した。


「一緒に選ぼうかと思ったんだけど、松本さんに聞いても白鳥さんに聞いても、それはお前が選んで、プロポーズの時に、渡した方がいいって、言われたから・・・。」


「聡志・・・。」


そう呟いて、彼を見上げる私を、聡志もじっと見つめる。


「由夏・・・。少なくとも、5歳のあの時から、俺の気持ちはずっと変わってないつもりだった。でもいつも結局、俺がバカで、俺がガキで、お前を不安にさせてばかりだった。本当にごめん。」


そう言って、頭を下げる聡志に、私は静かに首を振る。


「でもこれからは・・・何があっても、どんな時でも、由夏だけを愛し、由夏だけを見つめて、そして由夏を絶対に幸せにします。もし、信じて貰えるなら、俺と結婚して下さい。」


「聡、志・・・。」


見上げる彼の顔が、急にぼやける。そして私は、必死に言った。


「はい、末永く、よろしく・・・お願いします。」


そう言って、ゆっくりと彼に身体を預ける。


最初はそっと、そしてそのまま強く抱き寄せられた私は、彼のぬくもりに酔い、そして、彼を見上げる。


「由夏、愛してるよ。」


その彼の言葉と一緒に、柔らかな唇が降って来る。私はそれを受け止めて、やがてお互いの口の中を愛し合う。


それはいつまでも、そうしていたいくらいの幸せな時間。やがて、そっと離れた私達だけど、またじっと見つめ合う。


「私も聡志をこの世の誰よりも愛してる。だから、ずっとずっと一緒にいよ。おじいさんとおばあさんになっても、一緒にいようね。」


「うん。」


その言葉に、聡志は優しく頷いてくれた。