それから、ご夫妻と会話を交わしながら、俺は料理を楽しんだ。メインはもちろん、副菜もご飯もスープも、みんな相変わらずの美味しさで


(由夏が食べたら、大喜びだったろうな・・・。)


なんて思わずにはいられなかった。


そして程なく、デザートのバニラアイスまでを完食した俺は


「ありがとうございました、本当に美味しかったです。」


と一礼した。


「そう、ならよかった。」


そう笑顔で答えたマスターが、次に俺の前に腰掛けたのを見て、初めてのことで、ちょっと驚く。


「塚原くん。」


「はい。」


「今日、突然こんなふうに来てもらったのは、実は君に紹介したい人がいてね。」


「えっ?」


全く予想もしてなかった展開に、思わず息を呑んだ俺は、次に


「い、いや、すみません。俺はそういうわけには・・・。」


と慌てて腰を浮かせかける。


「突然、こんなことを言われて、驚くだろうし、迷惑かもしれないが、でも本当にいい子なんだ。君にピッタリだと、家内ともずっと話しててね。」


「堀岡さん・・・。」


堀岡さんは、由夏と俺のことを知ってるはずなのになんで・・・?いや知ってるからこそ、言ってるのか。でも、それは困る・・・。


「あの・・・。」


「もう来てもらってるんだ。私達の顔を立てて、会うだけは会ってもらえないか?この通りだ。」


するとマスターが俺に深々と頭を下げる。それだけじゃない、横に立っている奥さんまでが・・・。ここまでされて、断れるはずないよな。


「わかりました、お気遣いいただいて恐縮です。喜んで、お目に掛かります。」


そう言って、こちらも頭を下げると


「よかった。じゃ、入ってもらってくれ。」


ホッとしたような表情になったマスターが奥さんに声を掛けた。それを受けて奥さんが


「お待たせしました、どうぞ。」


厨房の扉を開けて、中に招き入れた女性を見た俺の呼吸は、一瞬止まった。


「岩武由夏さん。君に是非紹介したいと思ってた女性だ。」


「・・・。」


驚きのあまり、声も出ない俺に、ニッコリと微笑んだ由夏は、マスターに代わって俺の前に腰掛けた。


「それじゃ、ここからは若い方だけで。」


「そうだな。じゃ、ごゆっくり。」


そう言うとご夫妻はいつもの、上の住まいの方ではなく、外へ出て行った。そして俺達は、2人きりになった。