翌日からまた練習。キャンプと違い、俺達一軍選手は、朝からギッチリとメニューが組まれているわけではない。むしろ、自主トレに近い雰囲気かもしれない。


宮崎での合同教育リーグが終わり、帰仙した二軍選手の姿が、仙台スタジアムに目立ち始めると、一軍の主力クラスは、トレーニングを打ち上げる選手も出て来た。


「ツカ、身体を休めるのも、野球選手の仕事のうちだ。まして、お前は実質今年がデビューだ。心身ともに疲労は、自分が感じている以上のものがあるはずだ。適当に切り上げろ。」


エースの佐々木さんと、キャッチャーの醍醐さんは、異口同音に同じアドバイスをくれたし


「お前、今年はよくやったよ。もう、少し羽目外したって、バチ当たんねぇだろ。じゃ、お先に。」


長谷川のことなんか、既にすっかり過去の話で、新しい彼女も出来て、ご機嫌の菅沼さんも、軽やかに引き上げて行く。


俺だって、まして今の状況で、練習なんか放り出して、神奈川に帰りたい。でも、俺は今年だけの一発屋では終わりたくない。せっかく掴んだ今のポジションを失うことなんか、絶対に出来ない。


今年、掴んだものを身体に染み込ませて、もう失わないようにしないと。今、練習を止めるわけには、いかないんだ。


でも練習が終われば、俺は悩める若者に早変わり。今度の休みに神奈川に帰ることは決めているが、でも肝心の由夏のスケジュールが把握出来てないと、無駄足に終わりかねない。


俺は、仕方なく絶縁状態の実家に電話してみるが


『ウチに息子はいない。』


とガチャ切りされる始末。さすがに由夏の実家に連絡する勇気はなく、沖田も桜井も水木・・・じゃなくて悠さんも、おまけに白鳥先輩まで、なぜか連絡がつかず、もう出たとこ勝負だと腹を括った。


前日は練習を早めに切り上げ、その日のうちに神奈川へ戻って、由夏の家に押し掛ければ、迷惑だろうが、会えないことはないだろうと準備を進めていると、携帯が鳴った。


見れば、堀岡さんからだ。由夏と別れてから、俺は堀岡亭から足が遠のいている。由夏びいきのご夫妻のところに顔を出すのが、気が重かったからなんだが、ずっとお世話になって来た方に不義理をしてしまっている意識は、当然ある。


無視するわけにもいかず、電話に出ると


『ねぇ、最近どうしたの?ちっとも顔出さないで。こっちは一軍昇格と大活躍のお祝いしてあげようって、待ってるのに。』


と案の定、いきなり文句を言われた。