『やっぱり、最初から勝ち目なかったのかな、私。』


そう言いながら、フッとため息をつく長谷川さん。


『私、1年ちょっとで、仙台からこっちに戻って来た。都市銀って、確かに異動多いんだけど、それにしても1年は早すぎる。なんでだと思う?』


「・・・。」


『逃げ帰って来たんだよ、もう耐えられなくて。あんまりにも自分が惨めで。』


「長谷川さん・・・。」


あまりにも意外なことを言い出す長谷川さん。


『彼との時間の長さは、幼なじみのあなたには、どう逆立ちしても負けるけど、私だって中学の頃から、彼が好きだったんだよ。高校卒業間際に、やっと告白して、デ-トにこぎつけたら、2回目に『やっぱり、俺の心の中に由夏しかいないから、ごめん』って言われて、はぁ?だよね、こっちは。でも仕方ないなって諦めたんだよ。』


「・・・。」


『でも転勤で仙台に戻ることになった時、あなた達が遠恋になって、まだグズグズしてることは知ってたから、正直下心は満々だった。だから彼に近づいた。でも彼には結局、ほぼ相手にされなかった。私のことはあくまで、昔のクラスメイト、友達。それ以上の扱いをされたことなんか、1度もない。ううん、1度だけあったかな。』


(えっ?)


その1度という言葉に動揺してしまう私。


『今年、彼が開幕一軍を逃した時。自信あったんだよね、彼。でもダメだった。さすがに辛かったんだろうな。いくらつきまとっても、相手にされなかったのに、あの時は、車に呼び込まれて、眺めのいい山の上の公園まで、連れて行かれて、いきなりギュッと抱きしめられて・・・。近くにホテルもあって、かなり期待した。でもそこまでだった。』


悲しげにそう言う長谷川さん。


「でも、あの時・・・。」


思わず、そう言ってしまう。


『あの時もそう。珍しく彼から電話が来て、迎えに行くからって言われて、何事かと思ったら、「すまない。ちょっと協力してくれ」って言われて、訳わかんないまま、彼のマンションまで連れて来られて。そしたら、あなたが居てびっくりしてたら、「降りたら、腕組んでくれって」って。そして、あなたに見せつけて、あなたを追い返して・・・私の役目はそこまで。』


「長谷川さん・・・。」


『あなたが見えなくなった後、彼は何て言ったと思う?「ありがとう。じゃ、送ってくよ。」また、はぁ?だよね。』


「・・・。」


『もちろん部屋に入れてくれることはなかったし、それ以降はまた今日に至るまで、私は彼に、指一本触れられてないんだよ。』


「・・・。」


『とにかく惨めだった。なんでここまでコケにされなきゃならないんだろうって。そんなに私って魅力ない?って、思わず言っちゃったよ。でも彼は「ごめん」その一言だけだった。』


「・・・。」


『ピエロだよね、まさしく。ズタズタだよ、女としてのプライドなんて。だから私は逃げ帰って来たんだよ。』


そう言った長谷川さんの声はとても悲しそうで、切なそうで、私は何も言えなくなる。