「お前、付き合ってるのに、まだ『長谷川』って呼んでるのか、彼女のこと。別れた岩武のことは相変わらず『由夏』で『あいつ』なのに。」


「・・・。」


「白鳥さんの結婚式の二次会で話しをしたの、覚えてるか?」


もちろん覚えてるさ。


「俺はあの時、お前に2つのことを託した。とうとうプロ野球の世界に入ることが出来なかった俺を含めた野球を諦めた仲間達の分まで、力の限り、プロで戦って欲しいってこと。もう1つは、高校時代、俺が淡い思いを抱いていた岩武を必ず幸せにしてくれって。」


その神の言葉に、沖田が驚いたように奴を見る。沖田は当然初耳だったんだろう。


「1つ目の頼みは、どうやら頑張ってくれてるみたいで、大丈夫そうだ。だが、2つ目の頼みはどうなった?お前、岩武の何が不足で、彼女を突き放したんだ?」


「・・・。」


「塚原!」


詰問するような神の口調。俺はようやく悟った。


「神、お前最初から、この話をするつもりで、仙台に来たのか?」


「ああ。」


そう言って俺を睨む神の横で、どうやら何も知らされていなかった沖田が、間にも入れずにオロオロしている。


「由夏は幸せだな。お前に、こんなに思ってもらってるなんて。」


「話を逸すな!」


いきり立つ神に


「仕方ねぇだろ。それが由夏の為なんだから。」


ポツリと俺は答える。何を言ってるんだと言わんばかりの表情になる神と沖田に、俺は話し始めた。


「人は誰でも成長する、齢を取る。そうなれば、自然に考え方も変わる。大事にするもの、したいものも変わるのが当然。夢も目指すものも変わって、当たり前なんだ。あの時、あいつは自分が一人前のデザイナ-であることの証を立てる為、そして自分の会社を守るために必死だったんだ。それを誰が責められる?不眠不休で仕事してたら、急遽彼氏のプロ初登板が決まって、それに気づかないうちに試合が終わっちゃってて・・・。それでお前は薄情だって言われても『そんなの知らねえよ』って話だよな。」


「塚原・・・。」


「正直言って、あいつが、俺の初登板に気付いてなかったって知った時、ショックだったよ。ふざけんなって怒り心頭だったよ。」


「・・・。」


「でもさ、あいつにはあいつの人生がある。俺があいつに『ナイスピッチング、プロ初勝利、おめでとう』って言って欲しかったように、あいつだって俺に『すげぇな、お前のデザインした制服が、日本全国のあのス-パ-の従業員数万人に着られるなんて。本当にすげぇな。』って言って欲しかったはずなんだよ。少し経って、それに気が付いた。」


「・・・。」