週明け、出勤した私は、心配そうに近寄って来た陽菜さんに


「ダメでした、もう私は要らないそうです。」


明るく言うと、陽菜さんは絶句してしまった。


デザインの納品は無事に終了し、近々、どのデザインが採用になるか、発表される運びだ。


この日は、迫っている展示会の準備に追われたが、もはや残業してまで頑張る気力もなく、早々に定時で帰ろうとすると、平賀さんに呼び止められた。話があると、あまり人気のないスペースに呼び出されると


「丸山から聞いた、大変だったな。」


「いえ・・・。」


「それで・・・これからどうするんだ?」


遠慮がちにそう聞いて来た平賀さんに


「どうしましょうかね?行くとこ、なくなっちゃいましたし。」


と自嘲気味に答えた。


「こんな時に、なんだが・・・。」


そう言って、一瞬躊躇ったあと


「この前、話したこと、考え直してみてはくれないか?」


そう言って、私を見つめる平賀さん。


「お前の失恋に付け込むようで、気が引けるのは、確かだが、しかしこうなった以上、俺も黙っては引き下がれない。俺は真剣だ。すぐに返事をするのは無理だと言うなら、待つ。考えてみて欲しい。」


平賀さんの真摯な気持ちが、伝わって来て


「ありがとうございます。」


と頭を下げた私は


「でも、そんなに言っていただく価値が、私という女にあるんですかね?」


と思わず言ってしまう。


「岩武・・・。」


そんな私の言い草に、驚く平賀さん。


「私、もう何もかもが嫌になっちゃいました。」


そう言った次の瞬間、私は平賀さんの胸に飛び込んでしまっていた。


「岩武。」


「お願いです、少しこのままで居させて下さい。」


そう言うと、私は平賀さんの胸を借りて泣いた。この週末、いっぱい泣いた。でも人前では絶対に泣かなかった。聡志にだって、意地でも涙なんか見せなかったし、あとは無理して笑ってた。少なくても普通にしてた。


でも、強がるのも、さすがにもう疲れたよ・・・。


だから、そんな私達の様子を、陽菜さんがそっと伺ってたことに気付く余裕なんか、あるはずもなかった・・・。