「その試合を実際にお前が見ているかどうかなんて、関係ない。でもお前はどこに居ても、どんな時でも俺を見てくれている、俺と一緒に戦ってくれてると信じてたから。」


「・・・。」


「離れていても、お前は俺を応援してくれている。俺はそう信じてきた。だから俺は頑張って来られた。人の為になんて、俺は頑張れない。俺はずっと自分の為に野球をやってきた。野球が好きで、野球が上手くなりたくて、野球で有名になって、野球で金稼げるようになりたくて・・・。だけど、俺はある時気付いた。自分の為だけじゃ、やっぱり頑張れねぇって。だけど、誰か一人でもいい。俺を応援してくれる人がいてくれれば、俺は絶対に諦めないで頑張れるって。」


「・・・。」


「その一人・・・それが俺にとっては由夏だった。他に誰も応援してくれなくてもいい。だけど、この世の中で、たった一人、由夏だけが俺を見ていてくれれば、俺を応援してくれてれば、俺はそれで頑張れる。そう思って来た。」


「聡志・・・。」


「だけど、それは俺の勝手な思い込み。由夏にとっては迷惑な話だよな。」


「ちょっと待って、私・・・。」


「昨日の試合。あのやっとたどり着いた一軍デビュ-戦。大切な、一番お前と一緒に戦いたかった試合。だけど、あの試合をお前は見てくれてなかった。俺が登板したことすら、お前は知らずにいた。あの時間のお前の中に、俺の存在は、ひとかけらも存在してなかった。違うか?」


「それは・・・。」


違うって言いたかった。だけど、それを遮るように聡志の言葉は続く。


「試合中、何度お前に語り掛けたか、わからない。味方がリ-ドを守り切ってくれて、やっと勝利をこの手でつかんだ時、俺は本当に心の中でお前に叫んだ。『由夏、やったぜ!』って。でもその声は、結局なに1つ、お前には届いていなかったんだ。」


「ごめんなさい、でも・・・。」


「ショックだった。一番見ていて欲しかった時に、一番一緒に戦って欲しかった時に、お前は俺を見てくれてなかった。それを知った時、俺の中で何かが音を立てて崩れてしまったんだ。」


「聡志・・・。」


「自分でも心の狭い男だと思うけど、でもやっぱり許せない。お前があの試合を見てくれていなかったことを、俺を応援してくれてなかったことを。仕方ないじゃんって言って、飲み込むことが、どうしても出来ねぇんだよ!」


「・・・。」


「だから、もう終わりにしよう。それが一番いい。」


「聡志、待って!」