私達が泊まってるホテルのロビーに、聡志が姿を現したのは、7時半近かった。


「聡志!」


「おぅ、お待たせ。」


私の声に、聡志が笑顔で近づいて来る。間近に見る聡志は南国の日差しを連日浴びて、真っ黒に日焼けしている。


「聡志、お疲れさま。ごめんね、疲れてるのに。」


「なに言ってるんだよ。母さんこそ、こんな遠くまで来てくれてありがとう。それに桜井も。」


「ううん、ちゃっかり便乗させてもらっちゃって。図々しくてごめんね。」


「そんなことねぇよ。ただ先輩達から言われた。あんな美人が2人もお前の陣中見舞いに来るなんて、どういうことだって。」


「えっ?」


「それで、1人は俺の彼女ですけど、もう1人はその友達ですって答えたら、じゃその友達の方、紹介しろって言われちまった。」


「塚原くん・・・。」


思わぬ展開に戸惑う加奈。


「どう?桜井さえよければ、イケメン見つくろうけど。」


と聡志が押す。美人で聡明、4月からは厚生労働省のキャリア官僚となる加奈は、しかしなぜか恋愛運がなく、未だに彼氏いない歴イコール年齢。


「う〜ん、確かにカッコいい人、何人もいたし、いいなって思った選手もいたけど、でもプロ野球選手の奥さんって、たぶん、私には無理だから・・・。」


と答える加奈に


「そうか・・・お前にその気がないんじゃ、仕方ねぇな。先輩に明日、怒られて来るよ。」


「ごめんね、塚原くん。」


と本当にすまなそうな顔で答える加奈に、


「別に謝ることじゃねぇよ。」


と笑って答える聡志。


「それじゃ、こんなところで立ち話も、なんだから行こうか。」


私がそう誘うと、みんなは頷いて、ホテルのラウンジに向かって歩き出した。