投球練習をしながら、俺は考えていた。
(ランナーを2人出さなきゃ、松本さんには回らない。)
2ヶ月ほど前、同じようなことがあった。東京ドームでのGとのオープン戦、この日は、2イニングのリリーフ登板だった俺は、最初の回は無難に抑え、次のイニング前の投球練習で、全く同じことを考えていた。
一軍入りの切符が掛かっていたから、難は避けたいという気持ちがあったからだが、結果はものの見事に、松本さんまで回り、挙げ句の果てに、オープン戦にも関わらず、松本さんを敬遠させられるという無様な思いもさせられた。
(弱気じゃ駄目だ。とにかく攻める、のみ!)
9番は難なく打ち取った。そして相手打線は3巡目。俺がプロ初登板、初先発で、またこの回を抑えれば、プロ初勝利の権利を得ることは、当然相手もわかっている。
そして、それらのプレッシャーから、俺の心身が共に、限界に近づいて来ていることも・・・。
1番バッターは、俺に球数を投げさせることを主眼にバッターボックスに入って来た。際どいボールはファールにして、粘る。根負けした俺が、四球で出塁を許すと、ニヤリと笑って、1塁に向かった。
「あと2人だ。打たせて、取ってけ。」
醍醐さんが声を掛けてくれる。俺は黙って頷いた。
続く2番には、初球を狙い打たれたが、またしても菅沼さんが好捕してくれる。併殺を期待したが1塁はセーフ。
あと1人、だ。俺は最後の力を振り絞るように投げたが、5球目をレフト前に運ばれてしまう。
次の瞬間、小谷コーチがベンチから飛び出して来るのが、見えた。
(交代だ・・・。)
俺は思わず項垂れる。松本さんには、前の2打席、完璧に打たれている。リードはわずか1点。続投させるという選択肢を採る理由がない。
まして、Gを「永年の宿敵」と公言している監督は、勝利の為に、オープン戦で敬遠を指示した人だ。情に溺れる人じゃない。
覚悟を決めて、迎えた俺に
「お前、松本に女でも取られたこと、あるのか?」
といきなりの言葉を投げかける小谷さん。俺が思わず
「はぁ?」
と問い返すと
「まぁ、お前とアイツじゃ勝負にならんからな。気の毒だが仕方ない。」
「なっ・・・。」
小谷さんは続け、マウンドに集まっていた醍醐さん達は吹き出す。
「だから、その悔しさは野球で晴らせ、と監督が言ってる。」
ちょっと待ってくれ。俺、別に由夏、取られてねぇし。勝手にそんなこと決めつけられ・・・えっ?
小谷さんの顔が、スッと厳しくなった。
「交代はない。とにかく腕を振って、思いっきり投げろ。」
その言葉に、俺だけでなく、周りの野手陣の表情も引き締まった。
「さぁ、行け!」
そう言い残すと、小谷さんはベンチに下がる。俺がその後ろ姿を見送ると、その先で、監督は知らん顔で、横にいるコーチと話をしている。
(いよいよ待ったなし、勝負しかない。見ててくれ、由夏!)
覚悟を決めて、俺はバッターボックスの先輩を睨み据えた。
(ランナーを2人出さなきゃ、松本さんには回らない。)
2ヶ月ほど前、同じようなことがあった。東京ドームでのGとのオープン戦、この日は、2イニングのリリーフ登板だった俺は、最初の回は無難に抑え、次のイニング前の投球練習で、全く同じことを考えていた。
一軍入りの切符が掛かっていたから、難は避けたいという気持ちがあったからだが、結果はものの見事に、松本さんまで回り、挙げ句の果てに、オープン戦にも関わらず、松本さんを敬遠させられるという無様な思いもさせられた。
(弱気じゃ駄目だ。とにかく攻める、のみ!)
9番は難なく打ち取った。そして相手打線は3巡目。俺がプロ初登板、初先発で、またこの回を抑えれば、プロ初勝利の権利を得ることは、当然相手もわかっている。
そして、それらのプレッシャーから、俺の心身が共に、限界に近づいて来ていることも・・・。
1番バッターは、俺に球数を投げさせることを主眼にバッターボックスに入って来た。際どいボールはファールにして、粘る。根負けした俺が、四球で出塁を許すと、ニヤリと笑って、1塁に向かった。
「あと2人だ。打たせて、取ってけ。」
醍醐さんが声を掛けてくれる。俺は黙って頷いた。
続く2番には、初球を狙い打たれたが、またしても菅沼さんが好捕してくれる。併殺を期待したが1塁はセーフ。
あと1人、だ。俺は最後の力を振り絞るように投げたが、5球目をレフト前に運ばれてしまう。
次の瞬間、小谷コーチがベンチから飛び出して来るのが、見えた。
(交代だ・・・。)
俺は思わず項垂れる。松本さんには、前の2打席、完璧に打たれている。リードはわずか1点。続投させるという選択肢を採る理由がない。
まして、Gを「永年の宿敵」と公言している監督は、勝利の為に、オープン戦で敬遠を指示した人だ。情に溺れる人じゃない。
覚悟を決めて、迎えた俺に
「お前、松本に女でも取られたこと、あるのか?」
といきなりの言葉を投げかける小谷さん。俺が思わず
「はぁ?」
と問い返すと
「まぁ、お前とアイツじゃ勝負にならんからな。気の毒だが仕方ない。」
「なっ・・・。」
小谷さんは続け、マウンドに集まっていた醍醐さん達は吹き出す。
「だから、その悔しさは野球で晴らせ、と監督が言ってる。」
ちょっと待ってくれ。俺、別に由夏、取られてねぇし。勝手にそんなこと決めつけられ・・・えっ?
小谷さんの顔が、スッと厳しくなった。
「交代はない。とにかく腕を振って、思いっきり投げろ。」
その言葉に、俺だけでなく、周りの野手陣の表情も引き締まった。
「さぁ、行け!」
そう言い残すと、小谷さんはベンチに下がる。俺がその後ろ姿を見送ると、その先で、監督は知らん顔で、横にいるコーチと話をしている。
(いよいよ待ったなし、勝負しかない。見ててくれ、由夏!)
覚悟を決めて、俺はバッターボックスの先輩を睨み据えた。