2回、相手打線が下位に回ったこともあり、ここは俺も落ち着いて、0点に抑える。


3回はまた1番から。2人は打ち取ったものの、後ろの松本さんを意識してしまって、3番打者を四球で歩かせてしまい、松本さんが本日2度の登場。今度こそと、力一杯投げ込んだ速球を、待ってましたとばかりに振り抜かれると、打球はライトスタンドへ一直線。瞬間、覚悟を決めたが、フェンスの1番上に当たるツーベースヒット。


ホームランにならなくて、良かったが、それにしても、いいように先輩にあしらわれてる感じで、悔しくなって来る。


「塚原、肩の力を抜け。」


キャッチャーの醍醐さんのアドバイスに頷くが、どうも松本さんの顔を見ると、力が入ってしまい、おかしくなる。


続く5番に四球を出してしまい、とうとう満塁、ピンチが広がる。


「塚原は、松本が出てくると、赤色を見た闘牛のように興奮し出すが、あの2人はなんかあるのか?」


「高校時代の1年先輩後輩の関係になりますが。」


「アホ。そのくらいは知っとるわ。2人の間に、なんか曰く因縁でもあるのかと、聞いとるんだ。」


「さぁ、それは私にもなんとも・・・。」


ベンチで監督と小谷さんが、こんなことを話していたとは、この時点では知る由もなかったが、その会話を受けて、ベンチを飛び出した小谷さんは


「お前、松本一人を相手にしてるのと違うぞ。少しは落ち着かんか。」


と厳しい口調で言って来た。確かに先輩に対して、意識過剰になってることは、自分でも認めざるを得ない。


「すみません。」


(そうだ、先輩一人に心をかき乱されてたら、自滅するだけだ。言っとくけど由夏、お前のことで、先輩に対して熱くなってんじゃねぇからな。)


なぜか、心の中で、由夏に言い訳をした俺は、後続をなんとか抑えた。


4回は、また下位打線を3人で片付ける。すると、その裏、ここまで相手ピッチャーの前に沈黙していた味方打線が、反撃に転じ、女房役の醍醐さんが、逆転のヒットを放って3−2と試合をひっくり返した。


そして5回。この回を投げ切ると、勝利投手の権利を得られる。急遽のプロ入り初登板初先発に、初勝利の箔が付くことになる。


「よし、聡志。絶対にこの回は投げきれ。いいな。」


小谷コーチの檄に頷いて、俺はマウンドに上がった。