マネージャーの運転する車で、仙台スタジアムに向かいながら、さすがに俺も気が動転していた。
(こんなことがあるんだな・・・。)
長いプロ野球の歴史の中でも、こんな慌ただしい一軍デビューを迎える選手は、他にいなかったろう。
参ったなと思う反面、いよいよ待ち焦がれた舞台に立てるのだという気分の高揚もまた、感じ始めている。
「マネージャー。」
俺は、運転席に呼び掛けた。
「これってまだ、外部に漏らしちゃ、まずいですかね?」
「予告先発の変更には、当然ながら相手チームの了承がいるが、それは既にクリアされてると聞いてる。まもなく、マスコミにも発表されるはずだから構わんぞ。知らせたい人もいるだろうからな。」
「ありがとうございます。」
待ちに待ったプロ初登板、初先発。本当なら友人、知人合わせて、大々的に宣伝したいところだが、今は時間がない。両親とそして由夏にLINEを送る。
『突然で、信じられないだろうけど、今夜のG戦に先発することになった。プロ初登板初先発、自分でもまだ信じられないけど、とにかく精一杯腕を振って投げます。どうか見ていて下さい。』
母親からは、すぐに頑張れのメッセージが。父親と由夏は仕事中だから、まだ既読にもならない。由夏は今日は忙しいと言ってたから、すぐには気が付かないだろうけど、見たらひっくり返るだろうな。
球場に着くと、既に大勢の報道陣が待ち構えていて、一斉にフラッシュを浴びた。出迎えてくれた球団スタッフにガードされて、球場に入る。
まずは野崎監督に挨拶をしなければならない。監督室に向かうと
「聡志。」
と呼びかけられる、小谷さんだ。
「よう来た。」
「はい。」
「とにかくお家の一大事だ。大変だろうが、お前なら出来る。」
「コーチ。」
「わかっとるな。ビシッとGを抑えて、彼女にいいとこ見せて、喜ばせてやれ。」
「はい!」
そして、肩を1つ叩かれ、俺は監督室に送り込まれた。
そして監督からは
「待たせたな。」
とまず一言。
「前田からは、矢のようにお前を一軍に上げろと推薦の声が飛んで来たが、物事には頃合いってもんがある。」
野崎監督の語り口はいつもの茫洋としたそれだ。
「いよいよその頃合いが来た、と言いたいところだが、こんなことになるとは、さすがに俺も予想だにしなかった。名将の誉れ高い俺も千里眼ではないわ。ま、許せ。」
と言って、ニヤリと笑う。
「だが、お前ならやれる。去年の二軍の日本一決定戦の時もそうだったが、お前はそういう星の下に生まれとるんや。緊急事態の塚原やな。」
「はい。」
「とにかく、自分を信じて、全力で投げろ。そうすれば、道は開ける。」
「わかりました。」
自分を真っ直ぐ見て言った監督の言葉に、俺は頷く。
「昨日、一昨日と永年のライバルであるGに連敗して、ムカムカしとるんや。ええとこ見せて、スカッとさせてくれや。」
そう言って、笑った野崎監督の顔には、勝負師とは思えない愛嬌があった。それを見た俺は、スッと心が落ち着くのを感じていた。
(こんなことがあるんだな・・・。)
長いプロ野球の歴史の中でも、こんな慌ただしい一軍デビューを迎える選手は、他にいなかったろう。
参ったなと思う反面、いよいよ待ち焦がれた舞台に立てるのだという気分の高揚もまた、感じ始めている。
「マネージャー。」
俺は、運転席に呼び掛けた。
「これってまだ、外部に漏らしちゃ、まずいですかね?」
「予告先発の変更には、当然ながら相手チームの了承がいるが、それは既にクリアされてると聞いてる。まもなく、マスコミにも発表されるはずだから構わんぞ。知らせたい人もいるだろうからな。」
「ありがとうございます。」
待ちに待ったプロ初登板、初先発。本当なら友人、知人合わせて、大々的に宣伝したいところだが、今は時間がない。両親とそして由夏にLINEを送る。
『突然で、信じられないだろうけど、今夜のG戦に先発することになった。プロ初登板初先発、自分でもまだ信じられないけど、とにかく精一杯腕を振って投げます。どうか見ていて下さい。』
母親からは、すぐに頑張れのメッセージが。父親と由夏は仕事中だから、まだ既読にもならない。由夏は今日は忙しいと言ってたから、すぐには気が付かないだろうけど、見たらひっくり返るだろうな。
球場に着くと、既に大勢の報道陣が待ち構えていて、一斉にフラッシュを浴びた。出迎えてくれた球団スタッフにガードされて、球場に入る。
まずは野崎監督に挨拶をしなければならない。監督室に向かうと
「聡志。」
と呼びかけられる、小谷さんだ。
「よう来た。」
「はい。」
「とにかくお家の一大事だ。大変だろうが、お前なら出来る。」
「コーチ。」
「わかっとるな。ビシッとGを抑えて、彼女にいいとこ見せて、喜ばせてやれ。」
「はい!」
そして、肩を1つ叩かれ、俺は監督室に送り込まれた。
そして監督からは
「待たせたな。」
とまず一言。
「前田からは、矢のようにお前を一軍に上げろと推薦の声が飛んで来たが、物事には頃合いってもんがある。」
野崎監督の語り口はいつもの茫洋としたそれだ。
「いよいよその頃合いが来た、と言いたいところだが、こんなことになるとは、さすがに俺も予想だにしなかった。名将の誉れ高い俺も千里眼ではないわ。ま、許せ。」
と言って、ニヤリと笑う。
「だが、お前ならやれる。去年の二軍の日本一決定戦の時もそうだったが、お前はそういう星の下に生まれとるんや。緊急事態の塚原やな。」
「はい。」
「とにかく、自分を信じて、全力で投げろ。そうすれば、道は開ける。」
「わかりました。」
自分を真っ直ぐ見て言った監督の言葉に、俺は頷く。
「昨日、一昨日と永年のライバルであるGに連敗して、ムカムカしとるんや。ええとこ見せて、スカッとさせてくれや。」
そう言って、笑った野崎監督の顔には、勝負師とは思えない愛嬌があった。それを見た俺は、スッと心が落ち着くのを感じていた。