「陽菜さん、私もお話があります。」


私はついに決心して、切り出した。


「どうしたの?」


「まだ、誰にも話してないんですけど、私・・・JFCを辞めます。」


「えっ?」


「この仕事が終わったら、平賀さんにお話しするつもりでした。仙台に、行きます。」


そう言って、私は陽菜さんの顔を真っすぐに見た。そんな私に陽菜さんは


「そっか、とうとう決めたか。」


と言うと、ニッコリ微笑んだ。


「去年の秋から考えてたんですけど、こんな状況で、言い出せなくなっちゃって・・・。でも今回のお仕事をいただいた時、私、決心がついたんです。そして今日、平賀さんのデザインじゃなくて、私のデザインを皆さんに推していただきました。結果はどうなるかは、もちろんまだわからないですけど、私嬉しかったです、幸せな気分になれました。」


「由夏・・・。」


「もちろん、自分がデザイナ-として、まだまだ駆け出しなことくらいわかってます。でも生意気ですけど、取り敢えずは、JFCのデザイナ-として、思い残すことはありません。このデザインを無事、納品することが出来たら、私はもう1つの、ううん、もっと大切な私の夢に向かって歩き出したいんです。」


「夢?」


「はい。私は・・・あいつのお嫁さんになりたいんです。」


そう言い切った私の顔を、まじまじ見つめる陽菜さん。そして、ちょっとした沈黙が訪れて・・・私は急に恥ずかしくなった。


「すいません。いい歳して私、なに言っちゃってるんですかね。今どき、少女マンガでも、こんなセリフ出てきませんよね。本当にすみません。」


そう言って、慌てて頭を下げると


「ううん、あんたらしいよ。あんたらしい真っ直ぐな気持ち・・・そんなふうに言い切れる人がいる由夏が、素直に羨ましいと思った。」


と言ってくれる陽菜さん。


「そこまで、言われちゃ、止められないなぁ、やっぱり。夢って言われちゃうとさ。」


「陽菜さん・・・。」


「結局、そういうことだったのかなぁ。」


「えっ?」


「由夏が安心して、仙台に行けるように、私、呼び戻されちゃったのかな。」


「陽菜さん・・・。」


「ズルいぞ、私があんたを送り出すなんて、順番抜かしだ。」


そんなことを言われて、一層照れ臭くなる私。


「ま、仕方ない。今の私にはそんな相手、どこを見回しても、影も形も見えないし。だから・・・。」


そこで、一瞬言葉を切った後


「絶対に幸せになるんだよ。」


そう言ってくれた陽菜さんに


「はい。」


私は力強く頷いた。