「ちょっといい?由夏。」


そこへ陽菜さんの声がする。


「はい。」


「私も由夏に乗るけど、1つだけ。この基調にしている青、凄くいい色だと思う。」


「ありがとうございます。」


「でもこのアクセントに使ってる袖口や肩口の濃い目の青は、要らないんじゃないかな?」


「えっ?」


「思い切って全部一色で統一しちゃった方が、この青が生きるような気がする。」


陽菜さんのその言葉に


「そうかもね。」


「うん、インパクトを付けたいなら、スカ-トやスラックスの色目を濃くする手もある。」


岡嶋さんと平賀さんが続く。


「わかりました。」


皆さんのご意見が腑に落ちて、私は頷いた。


「じゃ、その線で手直しをして、今日中に一回上げてみてくれ。出来るか?」


「はい。」


「そしたら、渡辺さんが徹夜で、女子の制服のパタ-ンは上げてくれるそうだ。」


「えっ、渡辺さんがですか?」


「ああ。連絡を入れたら、『私はフリ-ですから、お仕事のご依頼は喜んでお受けしてます。』とのことだ。」


「わかりました!」


渡辺さんがやって下さるなら、安心だ。あとは私が、キチンとデザインを仕上げるだけ。私は勢い込んでデスクに向かう。


腰を下ろすと陽菜さんと目が合った。


「由夏、またよろしくね。」


「はい。」


夢でも幻でもない。そこに確かに陽菜さんがいる。私は本当に心強かった。


陽菜さん復帰の経緯は、昼休みに明らかになった。昨日、気分転換に街に出た平賀さんは、なにげなく立ち寄ったブティックで、陽菜さんに出会い、お互い固まってしまったのだそうだ。


「私、しばらくアメリカとヨ-ロッパを周っててね。改めて、向こうのファッションの勉強をしてた。誰かに特別教えを乞うたわけじゃないけど、いろんなお店を見たり、ファッションショーを見たりして。それはなかなか有意義な時間だったんだけど、懐が寂しくなってきちゃってさ。それでゴールデンウィーク明けに、戻って来たんだ。それで昨日はこっちにたまたま来る用事があって、懐かしさもあって、あのブティックに入ったら・・・まさかの、ね。日曜だし、JFCの、それも最も会いたくない人に会うとは、夢にも思ってなかったからさ。」


そう言うと陽菜さんは苦笑い。


「挨拶もそこそこに、立ち去ろうと思ったら、強引に引き留められて、そこからひざ詰め談判で4時間、復帰を懇請されちゃって。最初はもちろん、冗談じゃないって思って断ってたんだけど、最後はとうとうこちらの根負け。プライベ-トでも、あのくらいの熱心さで女を口説いたら、あの齢まで独身なんてこともないだろうにね。」


まさかそんなことになってたなんて、ね・・・。