その夜、私は聡志に連絡を入れた。


「お疲れ。今日もナイスピッチングだったみたいだね。」


この日の二軍戦に先発した聡志は、完投勝利で3連勝。今や二軍のエースとも言える存在になって来た。


『完投は初めてだからな、自信になったよ。あとは一軍からお呼びが掛かるのを待つばかりなんだがなぁ。』


開幕してから1月あまり。Eの一軍は首位争いを演じていた。開幕前はやや不安視された投手陣が好調で、聡志も調子が上がって来ているのに、中々出番がない。


「なんか、去年と似たような感じだね。でも、シーズンはまだまだ先が長いんだから。準備だけは怠らないようにね。」


と励ますと


『お前は前田さんか?』


「えっ?」


『今日、試合後に、監督に同じこと言われた。』


「そりゃ、そうだよ。私は第2の、それも聡志専任の監督なんだから。」


『なにを!』


「えへへ・・・。」


なんて会話を交わしたあと、私は今日の出来事を報告する。


『Yは仙台にも、でっかい店があるけど、それにしてもすげぇなぁ。』


「いやいや、そのデザインに応募するって言うだけで・・・。」


すっかり興奮気味の聡志に、慌てて説明する。


『それにしたって、スケールがデカい話だ。』


「うん。やっぱりテンションは上がるよ。やる気が漲るって感じかな。」


そう答えた私は


「でもスケジュールがタイトなんだ。納期まで2週間しかなくて。今度の土日は返上かな?しばらく連絡つきにくくなるかもしれないけど、ごめんね。」


と告げると


『そりゃ仕方ねぇよ。それより、無理はすんなよ。』


と言ってくれる聡志。


「うん、ありがとう。聡志も疲れ、溜まってない?」


『大丈夫。一軍に上がる前に、バテてるようじゃ、話になんねぇし。そうか、2週間か・・・。ちょうどその頃、交流戦が始まるんだ。今年はいきなり、地元でG戦で開幕なんだ。俺も、その辺でなんとか一軍に呼ばれて、お預けになってる松本さんとの勝負が出来るといいんだが。』


「そうなったらいいね。そしたら、すぐに知らせてよ。」


『ああ、もちろんさ。』


それからしばらくして電話を切ったんだけど、私はこの仕事で、デザイナーとしての自分に、一区切りを付けることを決めたことを、結局聡志には言わなかった。


迷ったんだけど、一度約束破ったような形になってるから、言い出しにくかったのと、ちょっとサプライズにしたいな、なんて思いもあったから。


(さ、明日からまた、忙しいぞ。)


聡志の声が、ますます私にバワーをくれた。明日も頑張ろう。