「どうだ、岩武。結果はどうなるかわからん。だが、チャレンジしてみる価値はあるとは思わないか?」


「はい!」


平賀さんの顔を真っ直ぐ見て、私は即答する。その返事に頷いた平賀さんは


「じゃ、頼んだぞ。」


と私に言う。


「えっ?」


「この仕事は、お前と俺でやる。」


「平賀さん・・・。」


上司の岡嶋さんや先輩を差し置いての、まさかのご指名に戸惑いを感じる。更にもう1つ、気になることが。


「ありがたいお話ですが、来月の展示会の準備や来季の春夏物のデザインも進めていかないと・・・。」


「そんなの、私に任せときなさい。」


私が懸念を口にした途端、声がした。岡嶋さんだった。


「そっちは私が責任持ってやる。希もだいぶ頼もしくなって来てるし、あんたはとにかく平賀を助けてやんな。」


「そうです。先輩、任せて下さい。」


思わぬ岡嶋さんと希の力強い言葉に、私は


「はい。」


と答えていた。


「決まったな。」


と満足そうに言った平賀さんは


「ただ、岡嶋はお前に、俺を助けるように言ったが、逆だ。」


「えっ?」


「この仕事のメインデザイナーは、お前だ。」


と言い切った。当然驚く私に


「そりゃ、そうよね。スーパーの従業員は圧倒的に女性が多いんだから。平賀の感性じゃ、とても無理。」


と岡嶋さん。


「余計なことを言うな、と言いたいが、残念ながら、岡嶋の言う通りだ。」


「凄い、由夏。」


「頑張れよ。出来たデザインは、俺が死ぬ気で売り込んでやるからな。」


「ありがとう、ノム。」


同期2人の言葉に、私が嬉しくなっていると


「そうだ、肝心なことを言うのを忘れていた。」


と平賀さん。


「デザインの納期は2週間後。」


「えっ?」


2週間って、それはいくらなんでも・・・。私だけじゃなく、周りも固まる。だけど


「正直、無理矢理割り込んだような仕事だからな。向こうにもスケジュールがあるから、仕方ない。やってくれるな。」


と言う平賀さんの言葉に


「わかりました。」


もう否も応もない。私は躊躇わずに答えていた。


「よし、じゃ今日も1日よろしく!」


その返事に、笑顔で頷いた平賀さんが、いつもの言葉を口にすると、みんなが一斉に動き出す。オフィスは久しぶりに活気が満ちていた。


私もデスクに座り、パソコンを起動させる。頭の中で、イメージを描きながら、私は1つの決心を固めていた。


(今度こそ、これが私のJFCでの最後の仕事だ。)


と。