試合が終わり、私と加奈はドーム近くのホテルのラウンジに移動。しばらくお喋りを楽しんでいたけど


「じゃ、私はそろそろ。塚原くんによろしくね。」


その加奈の声を切っ掛けに、私達は席を立つ。


「加奈、今日はありがとう。」


「うん、こちらこそ。」


「しっかりね、後悔だけはしないように。」


そう言った私に


「わかった。また、連絡するね。」


頷いた加奈と、手を振り合って、別れた私は、そのままエレベーターに。 


このホテルは、Eの東京遠征の際の宿舎になっている。このあと、私は聡志と最上階のレストランで待ち合わせをしている。


席は聡志が予約してくれている。案内された席からは、東京の夜景が一望出来る。ついさっきまでいたドームが、間近に白く浮き上がるように見え、隣接する遊園地のアトラクションも、きれいにライトアップされている。


これまでも、聡志の東京遠征の際に、食事をしたことは何度もあるが、二軍の球場は都心から離れていて、こんな素敵な眺めを堪能出来ることはなかった。


聡志は今、一軍のメンバーなんだ。改めて実感した。


「お待たせ。」


その声にハッと振り向くと、待ち侘びた恋人が、素敵な笑顔をたたえて、立っている。


「お疲れ様。」


そう言った私の顔は、自分でもはっきりわかるくらいの満面の笑み。2人きりの時のように、ぴょこんと抱きつけないのが、ちょっと不満だったけど。


料理も、聡志が決めておいてくれたようで、まもなくスタート。


「素敵な眺めだね。」


「うん。久しぶりに東京の夜景を見たけど、やっぱり圧巻だな。」


としばし、景色に見惚れたあと


「聡志、今日は本当にお疲れ。ナイスピッチングだったね。」


と言うと


「点、取られちまったからなぁ。」


とまず、ポツリ。


「今日はリリーフだったから、とにかく0でいかなきゃなと思ってたんだが、9番に打たれたのが、まずかった。」


「聡志には怒られちゃうかもしれないけど、私は正直、松本先輩まで回らないといいなぁと思って見てた。」


「俺も回したくねぇと思ってたよ。」


「えっ、そうなの?」


「そりゃ俺はあの人を目標にずっとやって来た。ドラフトの後の記者会見で、対戦したいバッターを聞かれて、あの人の名前を挙げたのも、覚えてる。だが、今の俺の状況で、危ない橋は渡りたくねぇからなぁ。だから次のバッターに力んで四球出しちまった。やっぱり邪な考えを持つとろくなことならないってことだな。」


と今度は苦笑いになった。