「野村くんとは、入社以来、仲良くして来たし、嫌な感情は全然ないんだけど、ただ正直言って、彼をそういう対象として見たことがなくて。」


そっか。ノムは、はっきり美優を意識してたけど、美優には全然伝わってなかったんだな・・・。


「それによりによって、なんで今?って気もする。こんな会社が大変で、ひょっとしたら潰れちゃうかもなんて時にって。」


「・・・。」


「下手したら、私達揃って失業者だよ。先行き、どうなるか、全然わかんないじゃん。そんなんじゃ、暮らしていけないよ。私も今年で26だし、これから付き合うってことになったら、どうしたって、結婚を意識しないわけにはいかないし。」


「うん・・・。」


「私、どうしたらいいのかな?」


そう言って、私の顔をじっと見つめる美優。


「それは美優の気持ち次第だよ。」


と答える私。


「結婚するとなれば、旦那さんになる人の収入って、それは絶対に無視出来ない要素だけど、でもそれ以前に、美優がノムをどう思ってるのか。それをハッキリさせるのが先決なんじゃない?」


「うん、それはそうなんだけど・・・。」


と思案顔の美優。


「それに、今みたいな時期だからこそ、ノムは美優に気持ちを伝えたんじゃないかな?」


「えっ?」


「今みたいな大変な時だからこそ、ノムは美優の応援が、支えが欲しかったんだよ。一緒に美優と力を合わせて、この困難に立ち向かいたかったんだよ、きっと。」


私がそう言うと


「だとしたら、それは男として、どうなのかなぁ?」


と美優。


「だって、元々付き合ってるならともかく、自分が辛いから、苦しいから助けてくれって、男としては、ちょっと情けなくない?」


「美優・・・。」


「由夏の彼氏だって、一人前のプロ野球選手になるまで、迎えには来られないって言ってるんでしょ?そのくらいの気概がないと、やっぱり将来心配じゃない。」


そんなことをあっさりと言う美優を見て、これは無理だな、と心の中でノムに語り掛けていた。


後日、やはり断ったと私に告げた美優は


「もう少し、様子を見るけど、私も転職考えようかな?福岡出張も無駄足に終わったみたいだし、やっぱり厳しいよね。」


と言い出した。


「美優・・・。」


「由夏はどうするの?彼氏さん、だいぶ調子いいみたいじゃない。もうそろそろいいんじゃない?」


私は返事が出来ない。