3月の声を聞いた。あの陽菜さんとの悲しい別れから、もうすぐ1年。この1年、本当にいろいろなことがあった。自分にも、周りの人達にも。


聡志は好調だ。既にオープン戦にも3度登板して、結果を残している。開幕まで、あと3週間程。一軍の主力選手達は、ここからグッと調子を上げて来る。正念場はこれからだ。この前、電話した時、聡志はそう話してくれた。


そして私は今、1人オフィスにいる。ガランとした部屋、他の人が、既に退勤したからなんだけど、明日になっても埋まらない席もある。


「あれ、由夏残ってたんだ。」


そう言って入って来たのは美優。


「うん、ちょっとやることがあってね。美優こそ、珍しいね。」


事務担当の美優が残業してるのは、正直あまり見ない。


「引っ越しの打ち合わせ。決して広いオフィスじゃないけど、移動するとなると、それなりに大変な作業だからね。」


我がJFCは今月末をもって、オフィスを移転することになった。退職者が続出し、今のスペースが必要なくなったこともあるけど、はっきり言えば、本社から追い出されたのだ。


「冷たいよね。いくら専属契約はなくなっても、系列会社であることには変わりはないのに。」


ため息混じりでボヤく美優の言葉に、私も頷く。


「平賀さんとノムは今日、帰ってくるんだっけ?」


「そう。今頃は飛行機の中じゃない?」


なんとか新しい取引先の開拓をと、平賀さん達は福岡に出張している。吉報が届けばいいけど。


「ねぇ、由夏。」


「うん?」


「私さ・・・実はコクられちゃったんだよ、野村くんから。」


「えっ、いつ?」


「1週間前。食事に誘われて、何の気無しに付き合ったら、突然。」


「そうだったの?気付かなかったな。」


「由夏にはもっと早く言いたかったんだけど、なかなか機会がなくてさ。」


「バタバタしてたからね、ここんとこ、ずっと。で、どうしたの?」


「本当に突然だったから、ビックリしちゃってさ。取り敢えず保留にさせてもらった。そしたら、出張から帰ったら、返事聞かせてくれって言われちゃって。」


と答える美優の表情は、やや困惑気味だった。