一軍に昇格したあと、俺は順調だった。


2度目の紅白戦登板も4回無失点。オープン戦の初戦の先発にも抜擢され、5回無失点。


『4年目塚原、遂に覚醒。ローテーションは任せた。』


との見出しが地元スポーツ紙に踊った。そして俺は、初めて一軍のメンバーとして、キャンプを打ち上げることが出来た。


一回、仙台に戻った俺達は、すぐにオープン戦の為に、各地を転戦した。北は札幌から南は福岡まで、一軍の移動範囲は格段に広くなる。大変だが、一軍にいるんだという実感が強く湧いた。


その一方で、プライベートの方は、宣言通り、長谷川からの猛アタックを受けている。


長谷川と話した次の日の夜、俺は由夏に、連絡を入れた。一連のことを由夏に話す為だったが、開口一番


『報告が遅い。』


と怒られた。


『もう昨日のうちに、長谷川さんから直接、宣戦布告されたよ。「岩武さんが煮えきらないから、私、塚原くんを諦めないことにした」って。』


まさか、長谷川が由夏の連絡先を知ってるとは思わず、油断した。


『お陰で、今日1日凄い嫌な気分だったんだけど。』


と告げられ


「す、すまん。」


とまずは謝ったあと


「でもな、俺、絶対にお前を裏切るようなことは・・・。」


と言うと


『わかってる、信じてるよ。』


と由夏の声。


『信じてるけど、平然としてられる程、私も強くないってこと。こういう時、距離って、もどかしいよね。』


そんな実感のこもったセリフを吐いたあと


『聡志、長谷川さんは真剣だからね。私にとっては、ただの横恋慕だし、大迷惑なんだけど、彼女は本気なんだよ。それだけは、心してね。聡志は優しいし、なんか長谷川さんには弱いとこあるし。』


なんて言われてしまう。だから


「心配すんな。可哀想だが、長谷川の話は聞かない。寄せ付けるつもりもないから。それが最終的には、彼女の為だから。長谷川にこれ以上、俺の為に辛い思いをさせるのは嫌だし、由夏を不安にさせるのは、もっと嫌なんだ。」


とはっきり答える。中途半端な優しさは要らない、長谷川の言葉は身に沁みている。


そして、その言葉通り、俺は長谷川を拒んでいる。心が痛まないと言ったら、嘘になる。だけど、もう同じようなことを繰り返すことは愚か過ぎるだろ。