「あなたは接近して来る私が鬱陶しくて、取り敢えず誰でもいいから、私を押し付けたかったんでしょ?」


口調は穏やかだったが、長谷川の表情は険しい。


「そうとられても、仕方ないかもしれないけど、でも俺は菅沼さんに確認した。長谷川とちゃんと向き合ってくれますかって。答えはイエスだったから・・・。」


「でも結果は、この間、話した通り。あなたの思惑通りにはいかなかったね。」


「・・・。」


「初めて連れてってもらったレストランで、そこの奥さんに、あの人が『今度は真面目に付き合いなさいよ』なんて、言われてるの聞いた時は、正直ビックリしたよ。ああ塚原くん、そんな人を私に紹介したんだ、そこまで、私のことを面倒くさく思ってたんだって、悲しくなった。」


「長谷川・・・。」


そんなつもりは絶対になかった、そう言い切れない自分がいる。長谷川が菅沼さんと付き合うことになって、ホッとしたのは確かだから。


「塚原くん。」


そう呼び掛けて、俺をじっと見た長谷川は、意を決したように言った。


「好きだよ。」


その彼女の言葉に、凝然となる。


「私の気持ちは、あの時・・・高校生のあの時から変わってない。」


「・・・。」


「忘れようと思った、諦めなきゃと何回思ったか、わからない。あなたと岩武さんの間に入り込む隙間なんかない。それもわかってた。だから、正直菅沼さんを含め、何人かの人と付き合ってみた。でもダメだった。」


「長谷川、もう・・・。」


「最後まで聞いて。そのくらいの思いやりがあってもいいでしょ!」


彼女の言葉を遮ろうとするけど、跳ね除けられてしまう。


「わかってるよ。私のこの気持ちが、あなたにとって、どんなに迷惑なのか。大学時代、何度もあなたの試合、見に行った。でもその度に、晴れやかな顔で、あなたを応援する岩武さんがいて。私はあなたにも、岩武さんにも気が付かれないように、コソコソして。なんで、こんなに惨めな思いしなきゃならないんだろうって涙も出たよ。それでも、諦められなかったんだよ!」


静寂の中、長谷川の声だけが響く。俺は情けないことに何も言うことが出来ない。


「そして今、岩武さんは神奈川に居て、私はあなたのすぐ目の前にいる。手を伸ばせば、あなたに触れられるのは彼女じゃない。私。そうでしょ?」


そう言うと、長谷川はフッと笑みをもらした。


「抱いてくれる?」


「長谷川・・・。」


「なんだったら、ここでいいよ。誰も見てないだろうし。私の思いを遂げさせてよ。」


「バカなことを言うなよ・・・。」


「菅沼なんて、いい加減な男に、私を押し付けようとした、責任とってよ!」


そう言い放つ長谷川に、俺は言葉を失う。