俺が恋人に電話を掛けたのは、その日の夜。全てのスケジュールを終えて、部屋に戻ってすぐだった。


『もしもし、お疲れ!』


すると待ち侘びてたと言わんばかりの、あいつの弾んだ声が耳に飛び込んで来る。


『試合、今見たよ。今日土曜出勤になっちゃったから、リアルタイムではみられなかったんだけど、ちゃんと録画しといたから。完璧だったじゃん。』


ウチのチームのキャンプはCSで生中継されていて、今日の紅白戦も放送された。由夏はそれを録画して、見てくれたようだ。


『テレビの解説者もね、べた褒めだったよ。今年の塚原は期待出来ますよって。あ〜ぁ、生で見たかったなぁ。』


と一気にまくしたてるように言って来る。はしゃいでいる様子が、ビンビン伝わって来て、俺も嬉しくなる。


「ありがとう。自分で言うのも、なんだけど、今日は調子良かったよ。」


『とにかく、川上くんに投げ勝ったんだから、凄い!』


今日投げ合った川上は、同じ3イニングを投げて2失点だった。確かに今日の結果を見れば、俺の勝ちだが、今ガンガンアピールして行かなくてはならない俺と、既に実績があって、開幕に合わせて調整すればいい川上では、立場が違うのも確か。


でも投げ勝ったのはやはり嬉しいし、それを由夏に褒められて、当然悪い気もしない。そして、俺は、由夏がもっと喜んでくれるであろうことを伝える。


「それで、来週の火曜からの第3クールから、一軍に呼ばれることが決まった。」


『えっ、本当?やったね、おめでとう。でも、今日のピッチングなら、当然だよね。よ〜し、今年こそ、開幕一軍だよ。』


「ああ、もちろんそのつもりさ。」


『ちょっと調べたんだけど、3月に東京ドームでGとのオープン戦があるよね。ちょうど日曜日だし、見に行くからね。そこで登板できるように、頑張れ。』


「おぅ。その試合は開幕に近いし、いい目標になるな。」


こうして、この前とは違い、大いに話は弾んだのだが、最後に俺は気になってることを由夏に尋ねた。


「でも土曜日なのに、普通に夜まで仕事だったのか?」


『うん、今日はどうしてもね。でも毎週ってわけじゃないから。本当にツイてなかったんだ、よりによって、聡志に会いに行く予定の時に限ってさ。私、そんなに普通の行い、悪いのかな?』


「そんなことねぇよ。でも、本当に無理すんじゃねぇぞ。」


『ありがとう。聡志は優しいな、私が約束破っちゃったのに・・・。』


「もうそれは言いっこなしだ。」


「うん。」


頷いて、顔をほころばせる由夏が、電話越しに見えるような気がした。