土曜日とあって、観客はそれなりにいる。場内アナウンスを受けて、俺がゆっくりとマウンドに向かうと、場内からは大きな拍手が起こった。 


審判から、ボールを受け取り、投球練習に入る。ふと白組のベンチを見ると、小谷さんが心配で堪らんと言わんばかりの顔でこちらを見ている。


敵チームのベンチに小谷さんがいることに違和感を覚えるとともに、その敵チームのコーチが俺を心配してくれてる姿がありがたくも、なんともおかしくなる。でもお陰でだいぶ肩の力が抜けた気がする。


「プレーボール!」


主審の声が掛かり、俺は醍醐さんが発するサインを覗き込む。そして1つ頷くと、第一球を思い切り投げ込む。打者の外角、醍醐さんが構えたミットに、真っ直ぐボールが吸い込まれて行く。


「ストライク!」


審判のコールとともに、観客から、また拍手が巻き起こる。


(イケるぞ。由夏、見ててくれよ。)


そして俺はまた、振りかぶった。


今日の俺の登板予定は3イニング。とにかく力を出し惜しまず、全力で投げるだけだ。2回まで、相手を寄せ付けずに投げ終え


「ここまでは完璧だ。あと1イニング、絶対に気を抜くなよ。」


「はい。」


ベンチで醍醐さんに声を掛けられ、俺は頷く。俺自身の調子がいいのも、間違いないけど、醍醐さんが本当に俺が投げやすいようにリードしてくれている。やっぱり一軍のレギュラーは違うと、内心舌を巻いている。


そして、予定の3イニング目のマウンドに上がり、投球練習をしていると、少しまとまった人数の観客が、スタンドに現れたのに気付く。そう言えば、今日から2泊3日で、地元仙台からの応援ツアーの一行が来ると、マネージャーから案内があった。


球団としては、ファンサービスの一環であり、くれぐれも失礼のないようにとのお達しだった。


結構な人数だなと感心していると、ふと見知った顔が目に入り、俺は驚いた。


(長谷川!)


一瞬、我が目を疑ったが、見間違いでは、やはりなく、彼女がニコリと微笑みかけて来た時、俺は思わず、今日は俺のバックで、セカンドを守る菅沼さんを振り返ると、先輩もやはり気づいたらしく、複雑そうな表情をしている。


思わぬ人物の登場に、一瞬動揺しかけたが、すぐに気を取り直し、試合に集中。


3イニング目も相手を寄せ付けず、パーフェクトで責任回数を投げ終え、ゆっくりマウンドを降りる俺に、長谷川が盛んに拍手を贈ってくれてるのは、目に入ったが、それより、俺はバックネット裏で戦況を見守っている野崎監督が満足そうに頷いている姿が見え、心踊っていた。