「一体どうされたんですか?」


当然の問いを発する私に


「ずっと考えてたのよ。陽菜の処遇に納得出来なかったっていうのもあったし、何より、岡嶋さんのお守りには、いい加減うんざりしてたし。そこに来て、会社がこんな状態でしょ。」


「・・・。」


「そんなところに、知り合いのデザイナー事務所から来ないかって誘われて、そろそろ潮時かなって思って決心した。一応、プレゼンまではと思ってたけど、それも一区切り付いたし、明日平賀さんには、話すつもり。」


とサバサバとした表情で答える並木さん。


「そう、なんですか・・・。」


まさかの返事に、言葉を失う私。


「所詮、ウチの会社なんて、親会社の庇護があって成り立ってたんだから。そのつっかえ棒がなくなったら、先なんて、見えてるじゃない。」


「並木さん・・・。」


「平賀さんや野村くんが、新しい取引先探してるみたいだけど、親会社に切られたデザイナー会社を相手にしてくれる物好きな企業なんて、そんな簡単に見つかるわけないし。」


「それはそうかもしれませんけど・・・。」


「それに・・・ここだけの話だけど、退職考えてるの、私一人じゃないから。」


「えっ?」


「みんな考えることは同じ。少しでも腕に自信がある人なら、泥舟に乗ったまま、一緒に沈没しようなんて、誰も思わないよ。そんなの当然。」


「・・・。」


「由夏も早めに、身の振り方、考えた方がいいよ。私と違って、あんたは素敵な彼氏もいるんだし。」


実は自分も退職を考えているとは、言い出しかねて、私が黙っていると


「平賀さんに申し訳ないなって気持ちは、正直あるよ。あの人にはお世話になったし、あの人がいなかったら、たぶんとっくにJFCなんか辞めてたな。」


「・・・。」


「でも、私にも生活があるし、この業界では、義理人情なんて鼻で笑われるだけだから。割り切って考えなきゃね。」


そう言って笑う並木さんの顔を、私は複雑な思いで眺めていた。