「わかった。」


私は頷いた。


「聡志の言う通りにする。でも聡志、これだけは信じて。私、もう迷ってないから。昨日、あなたに押し倒された時、私思った。これが聡志じゃなくて、あの人だったら、それこそ私は死ぬ気で抵抗してるって。だから言えたの。『あなたにあの人を私の心の中から追い出して欲しくて、ここに来た。』って。」


「・・・。」


「それに、仙台に来て、あなたを支えたいって言ったのも嘘じゃないよ。だから、喜んで、ここに残ります。ううん、ここに居させて。よろしくお願いします。」


そう言って、頭を下げる私を少し、眺めていた聡志はフッとため息をついた。


「いいことばかりじゃねぇんだな。長い間、一緒にいるから、相手のことがわかっちまうって。」


「えっ?」


「お前には、元に戻ったお前には、このまま仕事は捨てられねぇよ。まして会社が危機だなんて時に。」


「聡志・・・。」


「あと半年、来季の秋冬物のデザインを納品するまで、頑張りたいんだろ?本当は。」


そんなことを言う聡志に、私は驚くしかない。


「行って来いよ。ただし、本当にあと半年だぜ。さすがに俺も、それ以上はもう待てない。プロ野球選手として、恥ずかしくない成績を残してから、お前を迎えに行くなんて、格好つけたことばかり、考えて来たけど、さすがにあとがなくなって来て、もうそんな肩肘張ってられなくなった。由夏に一緒に戦って欲しい。」


「うん。」


その聡志の言葉が嬉しくて、思わずそう答えたけど、すぐに我に返る。


「でも、本当にいいの?私が心、乱された人って・・・。」


「お前を今の会社に誘った上司、だろ?」


「聡志・・・。」


それもわかってたの・・・。


「そりゃ不安だよ。猫に高級鮮魚を送り付けるようなもんだからな。それも鮮魚の方も食われる気、満々だったし。」


「ちょっと、聡志・・・。」


「ちゃんと聞け。『満々だった』って過去形で言っただろ。それに、お前は俺を裏切りたくない一心で、必死に自分の心を叱咤して、ここまで来てくれた。それは素直に嬉しかった。ありがとうな。」


そう言ったあと、やっと、大好きな笑顔を私に向けてくれた聡志は


「聡志!」


そう言って、胸に飛びこんだ私をしっかり、抱き止めてくれる。


「俺、ちゃんと追い出したな、ソイツを。」


「うん。」


「いい仕事しただろ?」


「うん、ありがとう。」


やっと、お互いにわだかまりなく抱き合えた・・・。