「何年、一緒にいると思ってるんだよ。」


「えっ?」


「お前がそんなこと、本心で言うかよ。」


「聡志・・・。」


「本当に会社が危機なら、お前は絶対に逃げ出すような真似はしない。率先して、その危機に立ち向かおうとするはずだ。無責任に放り出して、俺に逃げ込もうなんて、間違っても考えない。お前は、そういう奴だよ。」


真っ直ぐに私を見て、聡志は言う。


「どうしても、本当のことを言いたくないんなら仕方がない。俺達は、そこまでの関係だったってことだ。」


「・・・。」


「今夜は泊めてやる。だけど、明日朝一で帰ってくれ。」


そう言って、背を向けた聡志に、私は言ってしまっていた。


「聡志、許して。私、気になる人が出来た・・・。」


その私の言葉に、驚いたように振り向く聡志。


「由夏、お前、今なんて・・・。」


「私、聡志以外に、気になる男の人が出来ちゃったんだよ!」


そう叫ぶように言った私の言葉に、聡志は愕然とした表情を浮かべる。


「気が付けば、その人のことを考えている自分がいる。気が付けば、その人を目で追っている自分がいるの。どうしたの、由夏、しっかりしなって、自分で自分を叱っても、どうにもならない。気付いてたかどうか、わかんないけど、最近、こっちから電話もLINEも全然してないよね。」



「・・・。」


「出来なかったんだよ。あなたから電話貰って、いろいろ話しても、終わったらほとんど、内容を覚えてなかったりする。自分で自分がわからなくて、どうしたらいいかもわからなくて。誰にも相談出来なくて、パニックになってるところへ、昨日あなたから電話を貰った。そしたらいきなり、このオフは神奈川に帰って来ないって聞かされて、なんでって・・・。そうか、ひょっとしたら、こっちに長谷川さんがいるから、聡志はもう私なんか要らないのかなとか考えちゃって・・・。もう頭の中、グチャグチャになって、気が付いたら、仙台駅だったんだよ。」


遂に言ってしまった・・・。厳しい表情で、私を見る聡志の視線に耐えられなくて、俯く。


しばし流れる沈黙。そして、それを破った聡志の声は冷たかった。


「で、結局、お前は何しに来たんだよ。」


その言葉に、答えられず、俯いたままの私。すると、腕を物凄い力で引っ張られ、驚いて顔を上げる。


「聡志。」


「こっちに来い!」


そう言うや、聡志は私を引っ張って、歩き出した。