その夜、俺は由夏に電話をした。


『ゴメン。こっちから掛けようと思ってたんだけど、お風呂入ってて。』


なんて言って来る由夏の言葉も、もどかしく、俺は言った。


「由夏、済まないが、俺、このオフはそっちには帰らない。」


『えっ、どうして?』


驚いたように、聞いて来る由夏。


「とにかく練習したい。練習を1日も休みたくない。実際には、そんなこと不可能だけど、そのくらいの気持ちでいるんだ。」


『・・・。』


「このオフは、野球のことだけを考えて、野球漬けの日々を送りたいんだ。絶対に後悔だけはしたくないんだ。」


『でも、練習はこっちに帰って来たって・・・。』


「集中したいんだ。そっちに帰れば、雑念も誘惑もある。だけど、このオフだけは、そんなものは全部振り払いたい。ハッキリ言えば、そっちへの往復の時間さえ、もったいないと思ってる。」


『聡志・・・。』


俺のその言葉に複雑そうな声を出した由夏は、ひと呼吸置いて、言った。


『聡志は私と会えなくて、平気なの?寂しくないの?私は嫌だよ。何の為に、普段、離れ離れで頑張ってるの?私達。』


「由夏・・・。」


『会える時間があるから、それが自分達の力になるから。だから頑張れるんじゃん。聡志は違うの?聡志は由夏がいなくても、平気なんだ。』


俺は予想外の展開に戸惑っていた。由夏は俺がこう言えば、きっとわかってくれると思ってた。


『そうだよね。今年はそうするべきだよね。頑張ってね、応援してるから。お正月は私の方が、そっちに行くからね。』


と励ましてくれると思ってた。だけど、由夏の反応は、俺の想像とは全く違っていた。


『今年も一緒に、いろんな所に行こうと思って楽しみにしてたのに。私がそっちに行っても、結局聡志は練習や試合で、どこにも行けないし、遠征でこっちに戻って来たって、せいぜい食事、出来るくらいじゃない。私だって、1年に1度くらい、デートらしいデートしたいよ。それってわがまま?贅沢?ねぇ聡志、答えて!』


「由夏、一体どうしたんだよ。何かあったのか・・・?」


あまりにも様子のおかしい由夏に、たまりかねて、そう聞くと


『もういい!』


と言うや、由夏は電話を切ってしまった。


「由夏!」


慌てて呼び掛けても、当然返答はない。掛け直すけど出ないし、LINEも既読にすらならない。


(由夏・・・。)


思ってもいなかった展開に、俺はしばし立ち尽くした。