俺は、この人の推薦でEに指名して貰ったことになっている。実際には、大人の事情で、そういうことになっていただけなんだが、それでも話題性だけで、キャンプで一軍に抜擢された俺を邪険にすることもなく、面倒を見てくれた。
だけど、プロ野球選手としては、全く力のなかった当時の俺は、結局キャンプ中盤に二軍落ちすると、そのまま二軍の試合にも満足に出られないまま、1年を終え、苦闘する前田監督の何の力にもなることが出来ず、前田さんはその年限りで、チームを去った。俺は申し訳ない気持ちで、いっぱいだった。
「お前のことを当時、全く知らなかったのは、俺が勉強不足だっただけだ。それにキャンプでお前を見た時、時間は掛かるかもしれないが、ドラフト3位に見合う力は、あると思ったよ。キャッチャーとしてのお前にも十分魅力はあったけど、今回ピッチャーの道を選択したお前の判断は正しいと思うぜ。」
「ありがとうございます。」
「3年、長かっただろうな。だが、その3年は絶対に無駄にはならない。ピッチャーでありながら、キャッチャーとしての発想が出来る。これは、きっととてつもない、お前の武器になるはずだ。」
「はい。」
俺は大きく頷く。
「ところで、再会して、いきなりだが、お前とは短い付き合いにしたいと思ってる。」
「はい。」
「小谷さんが、球団にお前をずっとピッチャー専任にしてくれと掛け合ってたのは、知ってるな?」
「なんとなく。」
「今回、野崎監督が小谷さんに一軍昇格を打診した時、小谷さんは言下に拒否した。」
「えっ?」
「小谷さんは長年二軍のコーチやスカウトをやって来られた。若い奴らを見たり、鍛えるのが好きだから、一軍なんて性に合わないというのが、表向きの理由。本当は、いつまでもお前を客寄せパンダ扱いして、飼い殺している球団に腹を立てていたからだ。」
その前田さんの言葉に、俺は息を呑む。
「『どうしても私が欲しいなら、聡志をなんとかしてやって下さい。さもなければ、私はもうこの球団には、いるつもりがありません』とまで、野崎監督に言ったそうだ。そこで、お前をなんとかしたいということは同感だった監督が、球団と話をした。今回、お前の要望があっさり通ったのは、こんな事情があったからだ。」
「そうだったんですか・・・。」
「悔しいが、俺じゃ、球団を動かせなかったろう。野崎さんは、やっぱり凄い。」
そう言って、苦笑いする前田さんは
「ツカ、お前、幸せだな。ここまで監督と小谷さんに惚れ込まれてるんだからな。だからこそ、お前にはその期待に応える義務があり、俺にはお前を一刻も早く、2人のもとに送り出す責任がある。実は結構なプレッシャーなんだ、よろしく頼むぜ。」
そう言って笑う前田さんに、また頭を下げて、俺は部屋を出た。
嬉しかったし、プレッシャーも感じている中、俺には1つの決意が、固まっていた。
だけど、プロ野球選手としては、全く力のなかった当時の俺は、結局キャンプ中盤に二軍落ちすると、そのまま二軍の試合にも満足に出られないまま、1年を終え、苦闘する前田監督の何の力にもなることが出来ず、前田さんはその年限りで、チームを去った。俺は申し訳ない気持ちで、いっぱいだった。
「お前のことを当時、全く知らなかったのは、俺が勉強不足だっただけだ。それにキャンプでお前を見た時、時間は掛かるかもしれないが、ドラフト3位に見合う力は、あると思ったよ。キャッチャーとしてのお前にも十分魅力はあったけど、今回ピッチャーの道を選択したお前の判断は正しいと思うぜ。」
「ありがとうございます。」
「3年、長かっただろうな。だが、その3年は絶対に無駄にはならない。ピッチャーでありながら、キャッチャーとしての発想が出来る。これは、きっととてつもない、お前の武器になるはずだ。」
「はい。」
俺は大きく頷く。
「ところで、再会して、いきなりだが、お前とは短い付き合いにしたいと思ってる。」
「はい。」
「小谷さんが、球団にお前をずっとピッチャー専任にしてくれと掛け合ってたのは、知ってるな?」
「なんとなく。」
「今回、野崎監督が小谷さんに一軍昇格を打診した時、小谷さんは言下に拒否した。」
「えっ?」
「小谷さんは長年二軍のコーチやスカウトをやって来られた。若い奴らを見たり、鍛えるのが好きだから、一軍なんて性に合わないというのが、表向きの理由。本当は、いつまでもお前を客寄せパンダ扱いして、飼い殺している球団に腹を立てていたからだ。」
その前田さんの言葉に、俺は息を呑む。
「『どうしても私が欲しいなら、聡志をなんとかしてやって下さい。さもなければ、私はもうこの球団には、いるつもりがありません』とまで、野崎監督に言ったそうだ。そこで、お前をなんとかしたいということは同感だった監督が、球団と話をした。今回、お前の要望があっさり通ったのは、こんな事情があったからだ。」
「そうだったんですか・・・。」
「悔しいが、俺じゃ、球団を動かせなかったろう。野崎さんは、やっぱり凄い。」
そう言って、苦笑いする前田さんは
「ツカ、お前、幸せだな。ここまで監督と小谷さんに惚れ込まれてるんだからな。だからこそ、お前にはその期待に応える義務があり、俺にはお前を一刻も早く、2人のもとに送り出す責任がある。実は結構なプレッシャーなんだ、よろしく頼むぜ。」
そう言って笑う前田さんに、また頭を下げて、俺は部屋を出た。
嬉しかったし、プレッシャーも感じている中、俺には1つの決意が、固まっていた。