翌日、交渉場所である宿舎のホテルの一室に、指定された時間に赴いた俺を、球団代表と査定担当は、穏やかに迎えた。


「塚原くん、この間の試合、見事だったね。」


「二刀流の面目躍如でしたからね。」


「ありがとうございます。」


褒められて、嬉しくないわけはないが、しかし、今の俺の表情は自分でもわかるくらいに硬い。


そのあと、代表から、今季はキャッチャーとして、二軍の優勝、日本一に貢献してくれた。一軍での出場が、今年もなかったのは残念だったが、それは来季こそ、叶うことと期待している。との言葉があったあと、年俸は若干アップで来季の契約を結びたいとの言葉があった。そして


「それで、君の方から、何かあるか?」


と水を向けられた。今しかない、俺は切り出した。


「代表にお願いがあります。」


「なんだね?」


「来季は・・・ピッチャーに専念させていただけませんか?」


その俺の言葉に、驚いたような表情になる代表。


「球団からは、二刀流と期待していただいて3年が経ちました。しかし、結局、僕の力では、どちらも中途半端のまま、過ぎてしまいました。来年は勝負の年だと、自分でも思っています。ですから・・・是非ピッチャーとして、勝負したいんです。」


そう言って、俺は真っ直ぐに代表を見た。代表は少し考えると、口を開いた。


「先日の試合を見ても、君の二刀流は決して見込みがないとは思えない。それに今季の成績から言えば、君は今や、二軍の正捕手だ。来季は一軍も狙えるはずだ。専念するなら、むしろキャッチャーの方じゃないのか?」


「代表のおっしゃっることは、わかります。ですが、僕は自分をずっとピッチャーだと思ってます。ですから、やはりピッチャーとして、勝負をしたいんです。どうか、よろしくお願いします。」


そう言って、頭を下げる。そして、顔を上げ、代表をじっと見つめる。また流れる沈黙・・・それを破ったのは、代表の方だった。