「岩武さんが言いたいことはわかるよ。そんな犠牲になるべきはマルじゃない、もっと他にいるはずだって。私もそう思うし、平賀さんだって、そんなこと百も承知だよ。でもさ、平賀さんって、本来そんなこと決められる、決めさせられる立場じゃないよ。所長代理なんて、そっちの中では、呼ばれてるみたいだけど、実際そんな辞令が出てるわけじゃない。本社で言えば、まだ課長クラスの平賀さんが事実上、会社背負わされてるなんて、異常だよ。」


「・・・。」


「平賀さんから見れば、今は確かに上下関係もあるけど、JFCの古手のデザイナー達は、みんな同僚、会社立ち上げた仲間だよ。先輩だっている。その人達を平賀さんが切れる?でもマルは違う。マルは彼女の入社以来、平賀さんがデザイナーとして、手塩に掛けて育て上げた弟子であり、それこそ子飼いの部下だよ。平賀さんが、スマンと心の中で侘びながら、切れるのはマルしかいなかったんだよ。」


そんなことを言う井上さんの顔を見ながら、私は言葉を失う。


「そこまでして、平賀さんはJFCを、みんなを守ろうとしたんだよ。でも結局は報われなかった・・・。平賀さんが可愛そうだよ。」


そう言った井上さんの目に、涙が光ってることに、私は驚く。


「岩武さん。」


その涙を拭いながら、井上さんは私を見る。


「平賀さんを助けてあげて。」


「えっ?」


「JFCはまだ終わったわけじゃない。本社との独占契約は切られても、取引そのものを打ち切られたわけじゃない。新しい取引先に勝てば、今まで通り、JFCデザインの商品がウチの系列ショップの店頭に並ぶんだよ。」


「はい。」


「JFCをえこひいきをするつもりはないよ。自分で探し出して、声を掛けた取引先に、そんな失礼なことは出来ない。だけど、JFCには頑張って欲しい。なんて言ったって身内の会社だしね。」


「井上さん・・・。」


「その為には、マルがいない今、岩武さんが先頭に立つくらいのつもりで、やって欲しい。」


「私、ですか・・・?」


驚き、戸惑う私に


「そう、あなたしかいない。あなたなら出来る。私はそう思ってる、もちろん平賀さんも。」


そう言って、井上さんは素敵な笑顔を私にくれた。