「実は、今回の話は、私がバイヤーになった頃から、囁かれてた話だった。」


「そうなんですか?」


「もちろん当時は、まさかねって感じだったけど、それが数字がだんだん右肩下がりになって来て、交代したばかりのウチの上が焦りだして、俄然真実味を帯びて来た。」


「・・・。」


「売れないのは、デザインが悪い。そんなデザインをなぁなぁな身内意識で、買い付けている商品部が悪いって、騒ぎ出して。そして、その本社経営陣の矢面に立たされたのが平賀さん。平賀さんは、本社に懸命に打開策を提示し、もっといいデザインを創り出す為に、会社のみんなと共に苦しみ、悩み、時には叱咤して来た。でもこう言っては悪いけど、マルも含めて、笛吹けど、誰も踊らずって状況だったよね。新人のあなたはともかく、後はみんなぬるま湯に浸かってたんだよ。」


井上さんの指摘に、なにも反論できない私。私だって親会社の庇護の下にいるから、我が社は安泰と思ってたんだから。


「そして、遂に最後通告として、本社から会社の抜本的な改革を要求された平賀さんは、全面的な体制の変更を呑むしかなかった。それがあの春の全面的な人事異動に繋がった。そして、その象徴として、本社にスケープゴートとして差し出されたのが・・・マルだった。」


「えっ?」


「取り敢えず、誰かが犠牲にならなきゃ、もう収まらない状況だった。もちろん最初は平賀さん自身が責任を取るつもりだった。自分が辞めると申し出たけど、それは本社サイドもそちらの所長も首を縦に振らなかった。ならせめて、営業部長のポストを退き、本来のデザイナー業務に専念させて欲しいと言っても、それもノー。」


「なんでですか?」


「結局、今のJFCが平賀さん抜きでは回らなくなっているから。というより、所長、副所長が平賀さん任せで何も機能してないから。本来なら、そこにまずメスを入れるべきなのに、そこは本社も知らん顔なのよ。そちらの所長、ウチの社長の昔からの子飼いで、可愛がられてるから。」


なに、それ・・・。


「かくして、自分で責任を取る道を閉ざされた平賀さんは、誰かの首を代わりに差し出さざるを得なかった。そして、平賀さんはマルを選んだ。」


「そんなの酷過ぎます!」


思わず、そう叫んだ私に


「他に選択肢がなかったのよ、平賀さんには。」


井上さんは悔しそうに言った。