翌日、私は井上さんを訪ねた。これから店頭に並ぶ冬物と、来季の春夏物についての話があったからだ。


会いたい旨のオファーは1週間くらい前から、していたのだが、井上さんの時間がなかなか取れずに今日になってしまった。


これまで待たされても、せいぜい1日2日くらいだったから、変だなとは思ってたんだけど、昨日の発表で、そういうことだったのかと腑に落ちた。


話は、そんなに時間が掛からずに終わった。本当は、その先、つまり来季の秋冬物についての話も折角だから、少ししたかった。しかし、先行きが全く不透明になってしまった現状で、それを今、話すことは無意味に思えた私は、挨拶をして席を立とうとした。


「岩武さん。」


「はい。」


「よかったら、少し話していかない?」


陽菜さんのことがあってから、私と井上さんは、本当に必要な話しか、しないようになっていた。正直気まずいと言うしかない関係性に終始して来た、最近の私達だけど、久しぶりに井上さんから、そんな声を掛けられて、私は少し驚きながら、浮かせた腰をまた下ろした。


「それにしても、大変なことになっちゃったね。」


「以前、バイヤーがおっしゃっていた通りになりましたね。井上さんが目指されてた体制になって、よかったじゃないですか。」


いけないと、思いながら、つい冷ややかな口調で返してしまって、さすがに失礼だなと慌てて


「すみません、失礼な言い方をしてしまいまして。」


と頭を下げると、井上さんは少し苦笑いしながら、首を横に振った。


「着任以来、厳しいことばかり言って、マルを怒らせ、そのマルを追い出したと思われて、あなたにも嫌われた。我ながら、損な性分だとは思ってるよ。」


「・・・。」


「前にも言ったけど、少なくても私はマルに対して、個人的には何もないよ。普通に仲のいい同期の1人だと思ってた。だけど、これも前に言ったけど、マルの最近のデザインについては、残念に思ってた。どうしちゃったのマル?ってね。機会があったら、友人として忠告したいと思ってた矢先に、思いがけずにバイヤーなんかを拝命しちゃって。それもマルの担当商品の。」


「・・・。」


「そうなったら、完全にビジネスとしての関係になっちゃうじゃない。それで私もあんな言い方になっちゃった。でも、私も肩肘張りすぎてたよね。友達として話すことも、少しは必要だったのかなって、今更だけど、ちょっと後悔してる。」


そう言って、井上さんはため息をついた。