それからは出前のお寿司が注文され、飲めや騒げや。


「今日は塚原さんと飲み明かすんだ。」


すっかりいい気分になって、駄々をこねるお父さんを家まで引き摺ってくのに苦労した。


そして、しばらくすると聡志から連絡が入る。


『由夏、やったぜ。見ててくれたか?』


「もちろん、カッコ良かったよ。最初に四球連発したのは、カッコ悪かったけどね。」


『厳しいな。ブランクあったんだから、仕方ねぇだろ。』


「ウソウソ。本当にカッコ良かったよ、惚れ直した。」


『だろ?』


なんて言いながら、笑い合う。


「でも聡志、よかったね。」


『うん?』


「二刀流、続けて来て。今日の活躍は、世界中で、聡志以外は誰も出来なかったはずだもん。」


『そう・・・だな。』


聡志はそう呟くように言う。


「キャッチャーに専念させられてても、居残りしてまで、ピッチャーの練習、続けて来たんだもんね。ちゃんと神様は見てたんだよ。」


『「努力は必ず報われるとは限らない。でも努力しない者に、成功は絶対に訪れることはない」って言葉は俺の座右の銘。俺にこの言葉を贈ってくれた人が2人いる。1人は小谷ピッチングコーチ、もう1人は・・・お前。』


「そうだったね、なんかそんな偉そうなこと言っちゃったことあったね。」


ちょうど、何かの本で読んで、いい言葉だなって思って、聡志に教えたことがあった。


『由夏、俺決めたよ。』


「えっ?」


『今度の契約更改、まだしてもらえるかわからないけど、してもらえたら、球団に申し入れるつもりだ。』


「何を?」


『二刀流を辞めたい、ピッチャーに専念させてくれって。』


「聡志・・・。」


『お前に二刀流を褒められたばかりなのに、こんなこと言うのも何なんだけど、ずっと考えてたんだ。でも俺は二刀流だから、球団に採って貰えたことはわかってるから、言えずに来た。』


やっぱり聡志は知ってたんだ・・・。


『だが俺の二刀流は、悔しいけど、プロでは通用しない。それはもうハッキリ自分でもわかった。俺も来年は4年目、多分ラストチャンスの年になる。』


その聡志の言葉に、ハッとする。


『だったら、自分の好きな、やりたいポジションで勝負したい。悔いを残さない為にも。』


「聡志にとって、それはキャッチャーじゃなくて、ピッチャーなんだね?」


「ああ。」


短いその返事で、聡志の思いは十分に伝わって来た。


「わかった。聡志が決めたことなら、私は応援するだけだから。」


私の答えは、1つだった。


『ありがとう。』


それからしばらく話をして、私達は電話を切った。


(聡志は、新たな一歩を踏み出すんだな。私は、どうしたらいいんだろう・・・?)


そんなことを考えてしまう私。実は聡志にも、両親にも、親友達にもまだ話してないけど、私の会社は大激震に見舞われていた。