翌朝、早めに目が覚めた・・・というより、よく眠れなかった俺が、ダイニングに入ると、既に朝食の準備は、ほとんど整っていた。


「おはよう。」


そう声を掛けると


「おはよう。」


俺と目を合わせず、相変わらずのお怒りモードのトーンで返してくる。


「由夏、今回のことは俺が悪かった。本当にゴメン。だけど、これだけは信じてくれ。俺、お前に隠れて、長谷川とどうこうなんてことは絶対に・・・。」


「もういいよ。」


「由夏・・・。」


「私、帰りの準備があるから。食器はそのままにしといて。」


そう言い残すと、由夏はまた部屋に引っ込んでしまった。


そして、そのまま時間が過ぎ、もう出掛けなきゃならない時間に。俺は部屋の外から勇気を出して、声を掛ける。


「由夏、行って来る。いろいろゴメン・・・。」


そう言いかけると、カチャリとドアが開き、由夏が顔を出す。


「行ってらっしゃい。」


「由夏、俺・・・。」


「これで帰るね。新幹線の都合で、今日の試合は見に行けないから。」


「・・・。」


「これでまた離れ離れ。聡志が何をしようと、私にはもう見えなくなる。」


「・・・。」


その由夏の言葉に、俺は思わず俯く。


「今回のことは、お人好しの聡志が、自分を振ったことに負い目を感じているのを、長谷川さんに見破られて、そこに付け込まれただけだってことは、ちゃんと理解してるよ。」


「由夏・・・。」


でも一転、優しい口調で、そんなことを言ってくる恋人に、俺は顔を上げた。


「聡志に浮気する気なんか、なかったこともわかってるつもり。だけどさ、間違いってあるよね?魔が差すってことあるよね?聡志は人間だから、男だから。」


「・・・。」


「長谷川さん、美人じゃん。そして今も聡志に好意を持ってるのも、間違いない。聡志がその気になれば、すぐだよ。」


「でも、由夏。今は長谷川は、菅沼さんと・・・。」


「昨日は殊勝なこと言ってたけど、私が帰ったら、きっとまた長谷川さんは近付いて来るよ。」


「まさか・・・。」


決め付けるように言う由夏に、俺は半信半疑だけど


「聡志、これだけは覚えておいて。遠恋で、相手に隠し事し始めたら、後は崩壊に向かってまっしぐらだよ。」


という由夏の言葉に胸をつかれる。


「聡志を信じてる。だから、その私の信頼を裏切ることだけはもうしないって、約束して。」


そう言って、真っ直ぐに俺を見る由夏の真剣な瞳に、俺は


「わかった、約束する。」


と力強く答えた。


「よし。」


そんな俺に1つ頷くと、ようやく笑顔をくれた由夏は


「聡志、愛してるよ。だから頑張ってね、由夏はいつでも、どこにいても聡志を応援してるから。」


と言うと、ちょっと背伸びして、俺に口付けて来る。正直、参りました・・・俺は、こいつを悲しませることだけは、絶対にしないと、改めて心に強く誓っていた。