甘く、激しい一夜が明け、聡志を送り出した私は、後片付けを済ませ、ひと息入れた後、マンションを出た。もちろん、聡志の試合を見に行く為だ。


例年通り、お盆の時期は二軍戦も超満員。8番キャッチャーで先発出場した聡志は、3人のピッチャーを好リードして、見事、チームを勝利に導いた。


そして、試合後待ち合せて、電車で市内まで移動する。目的地は堀岡亭。


本日休業の札が掛かっているにも関わらず、ドアを開けると


「由夏ちゃん、久しぶり。お待ちしてました。」


と奥さんが待ちかねたと言わんばかりに、出迎えてくれる。


「こちらこそ、ご無沙汰いたしました。今日は私達の為に、お休みなのに、申し訳ありません。これ、大したものじゃないんですけど、お二人で召し上がって下さい。」


私が持参した鎌倉名物のお菓子を差し出すと


「そんな、気を遣わなくていいのに。由夏ちゃんはお客様で、ウチはちゃんとお食事の代金をいただくんだから。」


なんて言ってくれるが、わざわざ休日なのに、店を開けてくれ、まるで娘が帰って来たみたいに歓待してもらい、頂く料理もどう考えても、お支払いしている額とは見合わないくらいの内容。こんなもんじゃ、到底お礼にもなっていない。


そして、奥さんと一瞥以来の、いろいろな話をしていると、やがてマスターが料理を持って、厨房から出て来る。


「これ、秋の新作。由夏ちゃんのおメガネにかなったら、新メニューとして、店で出すから。」


なんて言われて


「えっ?ちょっと待って下さい。私、フードライターでも、なんでもないんで。」


と慌てると


「僕は変な理屈をこねくり回して、ご高説を撒き散らしてる連中の意見より、食べた料理に対して、素直に美味しい、美味しくないを言ってくれる君の意見が聞きたいんだ。」


とマスター。いや、参ったな・・・。


私は料理評論家じゃないから、気の利いたコメントなんか、当然出来ない。でもその料理を一口食べた瞬間


「美味しい。」


と笑みが溢れる。


「メニュー化決定だね。」


「ああ、今の由夏ちゃんの笑顔が、何よりのお墨付きだ。」


そう言って、マスターは満足そうに厨房に下がって行く。


「お前、大した信用だな。」


「う、うん。」


からかうような聡志の言葉に、照れ臭いやら、でもちょっと嬉しいやら・・・。