「本当は俺はここで野球をすることは出来なかったはずだ。だけど、いろんなことがあって、俺はここに来て、甲子園に3度も出場して、2度も優勝できた。あれがなかったら、俺はプロなんかにとても入ることは出来なかった。そして、由夏とこうして2人でここで肩を並べていることなんて、絶対出来なかったはずだ。」


「そう、だね・・・。」


俺の言葉に、由夏は頷く。


「ここは俺にとって、絶対に忘れられない場所。今の俺の原点だと思ってる。だから、今日、どうしてもお前と一緒にここに来たかった。由夏ともう1度、ここに立ちたかったんだ。」


「聡志・・・。」


「由夏。」


ここで俺は由夏を振り向いた。


「いよいよ明日から俺のプロ野球選手としての人生がスタ-トする。正直どこまでやれるかはわからない、自信なんて欠片もねぇよ。」


「聡志・・・。」


「だけど、これだけはお前に約束する。とにかく俺は全身全霊で野球に取り組む。脇目もふらずに、絶対に後悔しないように、全力でやる。その結果がどうなったとしても、お前に『俺は精一杯戦ったぜ』って胸を張れるように。」


「うん。」


「これからまた、なかなか会えなくなる。声だって聞けない日も続くかもしれない。寂しい思いもさせるだろう。ごめんな。」


その言葉に由夏は静かに首を振る。


「私の方こそ、側に居てあげられなくてごめんね。だけど・・・離れてても私達はいつも一緒だよ。私はいつだって聡志を見てる。あなたをどこに居ても応援してるから。だから・・・ケガだけには気を付けて、頑張って・・・下さい。」


「由夏・・・ありがとう。」


そういって微笑み合った俺達は、手をギュッと握り合うと、静かにグラウンドを後にした。