(結局、平賀さんは、何が言いたかったんだろう?)


自分のデスクに戻りながら、私は考えていた。なぜ、今、私を呼んであんな話をしたのだろう。陽菜さんがどうしてるなんて聞いて来て。


岡嶋さんが当てにならないことに、今更ながら気付いて、陽菜さんを追い出したことを後悔しているのだろうか?


だとしたら、平賀さんの人の見る目のなさに、呆れるしかないし、それ見たことかと言いたくもなる。


でも、その私の感情は、今更何も生み出さない。そのことに私はようやく気が付いていた。


私は、この間、悠に言われた言葉で、大切なことを思い出していた。それは、私がなぜこの会社に入ったかということだ。


私は平賀さんに憧れ、平賀さんの下で仕事がしたくて、決して大きくないこの会社に就職したんだ。


悠には、平賀さんに異性として憧れを持ってたみたいに言われてしまった。やれ平賀さんだ、やれ松本先輩だと、気の多い女だと思われるかもしれないけど、それは違う。


平賀さんへの憧れは、デザイナー、仕事が出来る社会人としての憧れ、というか尊敬の念だ。


その延長線上に、陽菜さんとの出会いがあった。平賀さんに出会って、平賀さんの会社に就職したからこそ、私は陽菜さんに出会えた。


平賀さんとの出会いが、デザイナーとしての原点であり、JFCを辞めてない以上、私はやっぱり平賀さんを信じて、平賀さんの下で全力を尽くすべきなんだ。そのことに気が付いたんだ。


そして、陽菜さんがいない今、ウチの会社の女子ヤンカジュのデザインは、私の双肩に掛かっている。正直、重荷だし、プレッシャーだけど、やるしかない。


あれから、おぼろげながら、考えていたことが、平賀さんと話して、ハッキリと自分の中で固まった。


(よし、やってやろうじゃないの。今度の春夏物が、ひょっとしたらJFCデザイナー岩武由夏の集大成になるかもしれないし。)


そんなことを考えながら、席に着いた私は、気合いを入れて、パソコンの画面を睨んだ。