その後、試験や卒業式で抜けて帰って来ることはあるが、それが終われば、とんぼ帰りになるので、今日がしばし別れのデ-トになる。


由夏の講義終わりに待ち合わせた俺達は、ある場所に向かった。かつて通い慣れたその場所は、しかし訪れるのは久しぶりで、だんだん近づいて来るに従って、なんとも甘酸っぱい思いがこみ上げてくるのを、抑え難かった。


「変わってないね。」


「ああ。」


懐かしい校舎が見えて来て、由夏がそんなことを言って来るのに、俺は頷いた。そして校門を過ぎ、俺達はやがていろいろな思い出の積もったあの場所に辿り着いた。


「わぁ・・・。」


由夏が思わず声を出す。懐かしくて、でもなぜか切なくて、俺はそんな由夏の横で、しばしその場所を見つめる。


「卒業以来、だな。聡志は?」


「俺は、OB会とかで何回かな。でも・・・お前と一緒に来るっていうのは、全然違うよ。」


ここは、俺がかつて仲間達と、大げさでなく、甲子園を目指して、血と汗と涙を流して練習に励んだ母校明協高校野球部のグラウンド。


そして、ここは俺達が幼い頃からのお互いへの想いを、ついに通じ合わせた大切な場所。


今はまだ授業中で、誰もいないグラウンド。だけど、もうすぐあの仲間達が、ガヤガヤと手に手にグラブやバットを持って、やって来そうな、そんな気がしてしまう。