プロ野球選手として一人前になる為に、早く身を固めろという小谷さんと、一人前になる前に由夏を迎えに行くなんて、無責任なことは出来ないと思っている俺のギャップは、多分いくら話しても、埋められないだろうし、女の幸せは結婚にこそあるという小谷さん世代の刷り込みも、そう容易には消えないだろう。


由夏が俺との結婚を望んでくれてるのは、多分間違いないし、俺だって、出来ることなら、小谷さんに言われなくても、明日にでもしたいと思っている。


だけど、俺の気持ちは上の通りだし、由夏も詳しくは話してくれないけど、仕事が今、大変そうなのは、伝わって来てる。由夏が俺と結婚する時は、今の仕事を捨てなくてはならないという現実がある以上、ことは、そんな簡単な話じゃないんだ。


まぁ俺達2人の中では、もう何度も話し合ったことだから、今更他の人にわかってもらうことでもないし。


話が少し、逸れてしまったが、2試合連続KOで、1回ローテーションから外されることになった俺は、調整を続けながら、キャッチャーとして、試合に出ていたが、すると予想もしない事態が発生した。


二軍のキャッチャーが立て続けにケガをし、結果俺が主戦キャッチャーとして、試合に出続けなくてはならなくなった。


いや、例え二軍だろうとレギュラーだ。喜ばない理由は1つもない。ここで結果を残し、一軍に昇格出来る。大チャンスの到来・・・のはずだった。


毎試合出られるということは、やっぱり楽しいし、張りになる。今日ダメだったことを、明日はこうしてみよう。そんな工夫が出来るのは、レギュラーならではだし、実戦でしか得られないことって、たくさんあるんだ。


疲れはたまるけど、心地よい疲れって奴。3年目にして、初めてプロ野球選手としての充実感を覚える日々。


由夏にも、折に触れて、そんな心弾む思いを伝え


『よかったね、その調子で頑張って!』


と励ましてもらっていた。


だが・・・人間は贅沢だ。いや、プロ野球選手としては当たり前の欲求だが、俺は二軍でレギュラーを張るために、頑張ってるんじゃない。


当然、その先に見据えるのは一軍、あの華やかな舞台。あそこに立つ為に、俺は、いや俺達プロ野球選手は全員戦っている。


二軍の試合に出続け、自分のスキルは確実にアップしている自信はあった。それを引っさげ、一軍に。それは夢物語じゃないところまで、来ていると思われた。だが・・・。