それから少しして、私達は店を出た。何度も一緒に帰った駅までの道、でもこれが本当に最後なんだ・・・。ダメだ、もう何を考えても、寂しくて、悲しくて涙が出る。


泣いている私の肩を慰めるように優しく抱き、陽菜さんはゆっくり黙々と歩く。そしていよいよ駅。本当に名残惜しかったけど、私達は右と左に別れなければならない。


「陽菜さん、本当にお世話になりました。お身体に気を付けて・・・身の振り方が決まったら、必ず連絡くださいね。」


ホントはこんなにキチンと言えてない。しゃくり上げて、途切れ途切れになりながら、私は言葉を紡いだ。そんな私を優しく見た陽菜さんは


「ありがとう。」


と一言言った後、一瞬、間をおいて話し出した。


「由夏の伸び伸びとしたデザインが羨ましかった。本当に素直でまっすぐで、由夏の性格そのもののデザインが。その感性を、そのまま伸ばしてあげたかった。今の由夏の良いところは怖さを知らないことだと思う。でもそのうち、いろんなプレッシャーが襲いかかってくるようになる。そんな時に由夏の盾になってあげたかった。でも、それはもう叶わぬことになっちゃったから。」


「陽菜、さん・・・。」


「明日からは少しのんびりして、そのあとは死に物狂いで就職活動して、必ずどこかでデザイナ-として返り咲いて見せるから。そしたら、もう私達は先輩後輩でも、上司と部下でもない。一人のデザイナ-として、敵、ライバルだからね。その時は容赦しないから、覚悟しなさい。」


「はい・・・。」


そんな陽菜さんの顔が、まっすぐに見られなくて、私はついに顔を覆った。


「じゃぁね、由夏。さようなら。」


そう言って、私の肩をポンと叩く陽菜さん。ハッとして顔を上げた私に、素敵で温かい笑みを残して、陽菜さんはクルリと私に背を向けた。


「陽菜さん!」


思わず大声で呼びかけた私を、でも陽菜さんは、もう振り返ってはくれなかった。


(陽菜さん・・・。)


キリがない・・・我ながらそう思いながら、でもどうしようもないくらいに涙が止まらなくて・・・人との別れがこんなに切なく、悲しかったのは、小学校の卒業式の翌日、聡志が仙台に旅立って行った時以来だった。


遠ざかって行く陽菜さんの後ろ姿を見つめながら、平賀さんから心が離れて行く自分を、私はどうすることも出来なかった。