「こんな無理な人事をしてまで、私を追い出したいのね！」


そう叫ぶように言うと、平賀さんをにらむように見る。


「人聞きの悪いことを言うな。これは会社の人事だ、好き嫌いや個人的な感情で決められることじゃない。当たり前のことだ。」


応じる平賀さんは、あくまで冷静だが


「語るに落ちるとは、このことね。あんたが、玲と2人でコソコソ、なんかしてるの、私が知らないとでも思ってるの！」


もはや感情を抑えられずに、平賀さんに言葉をぶつける陽菜さん。陽菜さんにとって、平賀さんは上司である以上に、デザイナ－としての師とも言える存在であり、このところ、ぎくしゃくした関係ではあったにしても、陽菜さんが平賀さんを尊敬していることは間違いなかった。その平賀さんに、こんな言葉遣いをする陽菜さんなんて、今まで想像すらできなかった。


「陽菜、それどういうこと？」


一方、岡嶋さんは、当然その陽菜さんの言葉に食いつく。


「玲が私を外してくれって、この人に訴えたんです。玲はとにかく、私が目障りで仕方なかったみたいですから。この人もそりゃ、ただの部下より自分の彼女の方が可愛いでしょうからね。」


「丸山、お前、何を言い出す・・・。」


陽菜さんの言い草に、さしもの平賀さんも、慌てたような声を出すけど


「他の人事異動者は担当替えだけで、私だけ追放なんて、あんたも随分、分かり易いことするのね。そっちがその気なら、こっちにも考えがあるから。このまま、私が黙って引っ込むと思ったら、大きな間違いだからね！」


「陽菜さん！」


そう言い放って、部屋を飛び出して行く陽菜さんを、慌てて呼び止めたけど、彼女は振り向きもしなかった。


「さっきは偉そうなこと言って、結局そう言うことなの？最低だね、あんた。」


「待ってくれ、あんなのは言い掛かりだ。」


さっきまでとは一転、動揺した様子で言う平賀さんを見た私は、先日の社食での井上さんの意味深な言動を、思い出さないわけには、いかなかった。