聡志にとっての3度目のキャンプが、始まった。


キャンプ初日から、聡志はブルペンに入り、精力的にピッチング練習を行った。かと思えば、キャッチャーに早変わりして、他のピッチャーのボールを受け、ノックもうけるなど、二刀流全開の動きだった。


というニュースを、会社からの帰宅途中で、スマホで確認する私。


(聡志、負けるなよ。)


私は遠く沖縄に思いを馳せる。


それから、私のニュースに一喜一憂する日々が続いた。


聡志がいいピッチングをしたと聞けば喜び、三振をいっぱいしたという結果に心配し、そんな毎日だった。


バレンタインに合わせて、沖縄に陣中見舞いにも行った。私が聡志の彼女であることは、球団職員の人達も、だいぶ知ってくれていて、結構気を遣っていただき、かえって恐縮してしまった。


「調子はいいぜ。今なら、ピッチャーとしてなら、一軍に呼んでもらっても、遜色ないと我ながら思ってるんだけどな。」


沖縄の強い陽射しを浴びて、既に真っ黒に日焼けした聡志は精悍に笑う。


実際、私が帰った後、一軍に呼ばれ、紅白戦で好投。そのまま一軍帯同が、決まったと夜、得意そうに連絡が来た。


「よかったじゃん。その調子で頑張りな。聡志なら、絶対やれるんだから。」


とにかく今は、聡志に気分よく、練習に取り組んで欲しいから、私は褒めまくることにしていた。


その一方、心を痛めていたのは、春物の動向が芳しくないことだった。


私の担当しているヤングカジュアルラインも苦戦していた。


「まだ寒いからね、これからだよ。」


自分に言い聞かせるように、陽菜さんは言ってるけど、昨年ベースでほぼ九掛けでは、決して明るい未来は描けない。


そして、2月が深まっても、数字は上向いて行かない。オフィスに焦燥の色が濃くなって来る。


悪いことに、オープン戦(対外練習試合)で、登板した聡志が、打たれてしまい、二軍に降格させられてしまった。


悪いことは重なるものだと落ち込みながら、迎えた3月、衝撃が走った。