だけど、その後、急に表情を曇らせた由夏は


「それより、私の方こそ、ゴメンね。全然聡志のところ、行けなくて。引っ越しだって、結局手伝えなかったし。」


と謝るから


「なんだ、そんなこと気にしてるのか?みんな師走は忙しいんだ、プロ野球選手くらいだよ。仕事が一段落して、暇してるのは。そのくらい、わかってるよ。」


と俺は言う。


「年末だけじゃないよ。結局、お盆の後、私、1回も聡志のところ、行けなかった。」


「仕方ねぇだろ、仕事が忙しいんだから。」


「うん・・・。」


「その代わり、俺が遠征でこっちに帰って来た時は、結構会えたじゃん。結果として、去年より会えたんじゃねぇか?」


「それはそうかもしれないけど・・・。」


と言いながら、なぜかハッキリしない表情の由夏。


「仕事が忙しいのは、結構な話じゃねぇか。もうデザイナーとして、一人前に仕事出来てるなんて、羨ましい限りだし、俺も嬉しいぜ。」


「嬉しい・・・の?」


俺のその言葉に、やや驚いたように、由夏は聞き返してくる。


「ああ、もちろん。お前だって、俺が好投したり、ヒット打てば嬉しいだろ?」


「うん。」


「それとおんなじだろ?」


「そっか、そうだよね。」


そう言って頷いた由夏の表情は、少し和らいだ。


「お前、男の服はデザインしないのか?」


「私は、女子服担当だから。」


「残念。由夏がデザインした服なら百枚くらい、買ってやるのに。早く女子だけじゃなくて、男子の方も担当出来るようになれよ。」


「聡志・・・。」


なぜか複雑そうな声を出す由夏の顔を、俺は少し眺めていたけど


「疲れたな。」


と唐突に言ってみた。


「えっ?」


「結構歩いたもんな。お前も疲れただろ?」


「うん、まぁね・・・。」


戸惑い気味に答える由夏に


「じゃ、そろそろ休憩にするか?」


と言うと、俺はニヤッと笑った。一瞬、きょとんとして、俺を見た由夏は次の瞬間、見る見る顔を赤く染めると


「あ、あんた、何考えてるの?そんなこと、普通の声で言うなんて。周りに聞こえるでしょ。」


と慌てて言う。付き合い始めてからは、俺を「あんた」とはあまり呼ばなくなった由夏だが、怒ったり動揺したりすると、つい口に出るようだ。


「別に俺、休憩しようって言っただけだけど。」


とすました顔で言ってやると、絶句してるので


「ほら、行くぞ。」


と手を引いて、歩き出した。


ちなみに、水族館の真ん前を始め、カップル御用達のその手の場所にも困らないはずなので、江ノ島デートは締めもご心配なく・・・。