俺が神奈川に戻って来たのは、世間が仕事納めとなる時期だった。


『今日は、最後に締めの飲み会なんだ。ゴメン。でも明日はまる1日、一緒だからね。』


なんて言ってた由夏。会うのは先月の白鳥先輩の結婚式以来だが、あの時は、俺もとんぼ返りで、あんまりゆっくりあいつとの時間も取れなかった。


(楽しみだな。)


そんなことを思いながら、その日は久しぶりの実家で、のんびりと過ごした。


そして翌朝


「こらぁ、いつまで寝てるんだ?」


という声が聞こえ、カーテンを開ける音。それと共に俺は掛けていた布団を引っぱがされた。


「寒!」


俺が思わず、布団を取り返そうとすると


「おはよ。」


と満面の笑みで、着飾っている恋人の顔が、ほぼ目の前に。


「ウワッ。」


俺が思わず、そう叫んで身体を引くと


「何、そのウワッって?こんなラブリィでキュートな彼女が起こしに来てあげたのに、失礼な奴。」


と、いけしゃあしゃあと言いやがるから


「何がラブリィでキュートだ。女子高生じゃあるまいし、そんなの自分で言うな。だいたい、目を覚ました途端に、目の前に人の顔があったら、それが例え誰だろうと、普通驚くだろう。」


と言い返してやる。


「そう?ずっと離れ離れだった愛しの由夏ちゃんの顔を、朝から見られて、幸せだったでしょ。」


なんだコイツ、昨日悪い酒でも呑んだのか?確かに本質的には、可愛い彼女だとは思ってるが、それにしても、なんか今朝はいつもとキャラが違うような・・・。


「だいたい、今何時なんだよ?」


「7時半。」


「お前、ふざけんなよ。約束は10時だったろ。前の日、飲み会だから、そのくらいの時間じゃないと自信ないって言ったのは、そっちだろ。」


「そう思ってたんだけど、久しぶりに聡志とデートだと思ったら、嬉しくて、目が覚めちゃったんだもん。」


そんなこと言って、小首傾げながら、ニコリと微笑むなんて、絶対にお前のキャラじゃない。この卑怯者!


「だから観念して、早く起きな。さ、出かけるよ。」


でも、そう言って、俺の手を引っ張る由夏は、やっぱり可愛くて。ダメだ、コイツには勝てない・・・。


「わかった。わかったから、とりあえず1回出てけ。」


「はいはい。じゃ、早くね。」


「全く、なんなんだよ・・・。」


なんて面倒くさそうに(もちろんポーズだけ)俺がベッドから降り立ったのを見届けると、由夏は嬉しそうに部屋を出て行った。